第十八話:決戦
――約束の時間、午前二時。僕たちはお店の駐車場にいた。僕たち三人以外、人っ子一人見えない夜の街は不気味で、そばの交差点で何が通るわけでもないのに忙しなく点滅する信号機に虚しさを覚える。
僕と愛奈さんは前方に仁王立ちする男――ジェレミ・イェーガーと五メートルほどの距離を置いて対峙している。
「てっきり逃げ出すものばかりと思っていたが、まだ騎士としての自覚はあったというわけだ」
「それはこちらの台詞だ。よく来たな、ジェレミ」
言うと愛奈さんは手に持っていた紫色をした石ころのようなものをジェレミに見せる。
「付近の人間に危害を加えぬよう、結界を張る」
「そんな連中のことよりも自分の心配をした方がいいのではないか。まあ好きにするがいい」
「そうさせてもらう」
愛奈さんは手前、ジェレミとの中間地点辺りに石ころを放る。石ころがアスファルトに触れた瞬間、何やら擦りガラスのような色をした膜がドーム状に広がり、僕たちを覆った。範囲としてはこの駐車場の八割程度をカバーしているように思う。
「これで私たちの攻撃が近隣に及ぶことはなくなり、音はもとより姿かたちさえ捉えることはできなくなった」
僕はただただ驚く。ロールプレイング・ゲームで登場するようなアイテムが実際に使われ、結界となって僕たちを覆っている。まさに魔法だった。
「これで準備は整ったというわけだな。その前に――」
ジェレミは剣の柄に手を掛け、ある提案を持ち掛けてきた。
「なあ愛奈、俺の下に来ないか」
……え?
ジェレミのあまりの唐突な言葉に僕たちは言葉が出なかった。
「愛奈よ、俺と共に世界をこの手に収めないか」
要するに、ヘッドハンティングだった。ジェレミは続ける。
「俺はいつまでも魔王にこびへつらっているような男ではない。ましてや何歳も年下の、にだ。丁度そこの小僧と同じくらいか。常に奴を蹴落とす準備はできている。ここで愛奈、お前のような有能な人材が加われば魔王を亡き者にすることも夢ではないだろう。どうだ、二人で楽園を築こうじゃあないか」
「……」
「魔王を倒すことがお前の使命なのだろう?」
「……それも一つの答えなのかもしれないな」
「愛奈さんっ!?」
愛奈さんは思案した後、不敵に微笑みながら目を閉じる。
「おお、そうか! ならばこんな戦いは無意味であろう! 帰ろうぞ、楽園に!」
「――確かに、魔王を討伐することは私の使命だ」
手を差し伸べるジェレミに愛奈さんは目を閉じたまま口を開く。
「それは、世界が平和になるのなら、という絶対条件の下での話だ。だが、今の貴様の話では何かがおかしい」
徐々にジェレミの顔は険しくなっていく。
「――なぜ、貴様がまだ生きているのか、ということだ」
愛奈さんはゆっくりと目を開く。
「別に必要ないだろう? 平和な世界に、貴様のような人間は」
そして強い信念を持った瞳は、深紅の騎士を真っ直ぐに捉えた。
「糞くらえだ。御免被る」
交渉決裂。
手を差し伸べていたジェレミはその手を下ろし、何がおかしいのか突然笑い出した。
「そうか、それは残念なことだ。俺はこの世に生を受けて、初めて敗北というものを味わったぞ」
「もうじきに二度目を知ることになる」
「……殺す」
その言葉を引き金に二人の騎士は同時に剣を抜いた。




