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第十七話:夢

「東間くんが私を呼び出すなんて、愛の告白でもするのかしら?」

 その日の放課後。僕は笹子先生と二人きりで空き教室にいた。正直、先生に呼び出された昨日の今日で早くも遅刻というとんでもないことをしてしまい、あわせる顔なんてあったものではない。でも僕は先生に伝えないといけないことがあった。それは愛の告白でもなければ、いじめの相談でもない。

「いえ、別にそういうことでは……」

「冗談よ、冗談。で、何かしら?」

 笹子先生はにんまりと頬杖をついておどけてみせる。暮れなずむ教室で、一つの机を囲んでのちょっとした二者面談。得も知れぬ背徳感に駆られるのはなぜだろう。

「ええとですね……ちょっと前の話になるんですが、家庭訪問があったじゃないですか」

「ええ、あったわね」

「その時、僕の進路について先生、聞いたと思うんです。確か僕は何となく進学って言ったと思うんですけど」

「そうね、東間くんが進学希望なのはわかっているわ」

 先生はノートを取り出してページをめくりながら相槌をうつ。

「僕、決めました。何となくとかそういうことではなくて、改めて、進学をしたいと思います。今日はそれを言いたくて」

「……その様子じゃ、何か夢でも見つけたのかしら?」

「はい、コンビニの経営方法を学びたいと思いまして」

「ってことは、お店を継ぐの?」

「まだ父さんには言ってないですけど、そう考えています」

 いつまでも、このお店が残っていてほしいから。

「そう。先生嬉しいわ。東間くんのやりたいことが見つかって」

「どんな大学に行けばいいのかまだ何も調べてないんですけどね」

 あの人に、いつでも帰ってこられる場所を、いつまでも残しておきたいから。

「東間くんの意思はわかったわ。それじゃこれからは勉強も頑張らなきゃね」

「……なんとかやってみます」

 まだ輪郭の見えない漠然としたものだけれど、僕の未来は幾分か視界が良くなったように思う。よし、やろう。やってやろうじゃないか。何も恐れることはない。失敗はいくらでもできる。それはいつか、来たるべき成功の糧となるはずだから。

 愛奈さんも、そう思うでしょう?



       ◇



 午後五時半。学校から帰宅してお店の従業員室に行くと、愛奈さんは既にこっちの世界に来ていた。

「おかえりなさい。どうしたんですか、ロッカーなんか触って」

「――いや、ほんの数か月だというのに、このみすぼらしい物置きには随分と世話になったと思ってな」

「そうですね、僕もそんな気がします。支度は整いましたか?」

「ああ。予備の装備だから万全とはいえないが、十分に戦えるだろう」

「……本当にやるんですね」

「くどいぞ」

「すいません……」

「時間もまだあることだ。佑樹、お前は今日『しふと』には入っているのか」

「ええ、六時から捺と入ってますけど」

「私にも手伝わせてくれないか」

「だめです」

「別にいいだろう、手持ち無沙汰なのだ」

「だったら、それまでゆっくり休んでください」

「でも……」

「コーラ買ってあげますから」

「――」

「どうしますか?」

「……やっぱり勝てないな、こーらには」

「決まりです。待っててください、買ってくるんで」

「お前にも一口だけ分けてやろう」

「はいはい、ありがたく頂戴いたします」

 今日も今日とて、僕はお店に出る。いつも通りの代わり映えのしない業務。こんなものに、僕は未来を見出してしまった。それはなんて矛盾で、どうしようもない倒錯だ。

 ――でも僕は、そんなこのお店が、とうの昔から大好きだったのかもしれない。

 


 そして、決戦の時は訪れた。


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