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クライス  作者: 桝克人
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第11話

 出来上がったら届けると約束したカトリンから引換券を受け取り家路につく。家の中に入ると不穏な鳴き声が聞こえてきた。イアンは荷物を整理することなく、玄関先の床に置いて慌てて階段を駆け下りた。


「おい、どうした。なにかあったのか?」


 イアンの視界に飛び込んできたのはリルが床に座り込んで泣いている姿だった。


「ああ、おかえり……」

「リヒャルト!」

 怒号をあげてリヒャルトに詰め寄ると、「馬鹿!おちつけ」とイアンを制止しながらも圧倒されて壁へと追い込まれる。


「なぜ、リルが泣いている。ちょっと出かけている間にまた気が変わったのか」

「そんなわけないだろう?とにかく落ち着けって」

「ああ、落ち着こう。返答次第では殴るぞ」

「おまえみたいな馬鹿力で殴られたら死んでしまうよ……あれだあれ」


 ガラスの部屋を肩越しに親指で指した。イアンはその指先をたどると、ベッドが一つ完成している。


「もうできたのか?」

「お前が言うガラクタの中で作ったんだよ。あり合わせとはいえ立派なもんだろう」


 イアンは外に運び出して、反対側の壁側に置いたガラクタの山を見ると、なんだか嵩が減っている気がする。


「それで?泣いている理由はなんだ」

「見た目だ」


 リヒャルトの疲れた顔を見てイアンは何を言っているのか理解できなかった。改めてじっくり見ると、確かに普通のベッドではないが、あのガラクタの山から作ったと思えば立派なものだ。


――ピンクは最強よね。


 カトリンの言葉が思い浮かぶ。確かに十歳の女の子が使うベッドにしてはあまりにもごつい作りで可愛げがない。


「う……ん。いや、確かに女の子が使うには、アレな感じだけれど……」泣くほどなのかとイアンは首をかしげた。

「リル、何が嫌だったんだ」


 しゃくり声をあげて泣いている。リルはイアンに小さくかぶりを振って何かを訴えようとしている。


「ゆっくりでいい。落ち着いてから自分の言葉で言いなさい」


 イアンはリルの背中をとんとんと叩いたり、ゆっくり撫でたりして落ち着くのを待つ。呼吸を落ち着かせるように一緒に意識的に呼吸を繰り返した。


「……あそこを思い出すから」

「あそこ?ああ……工場か」


 リルの様子を見ると、やはり子供には耐えられないような、過酷なことがあったのだろう。イアンはリヒャルトにどうにかならないかと目配せした。リヒャルトは小さくため息をついてリルの前で膝をつく。


「なるほどね。しかしだな、これはおまえに必要なことなんだよ。寝ている間でもおまえの力はどこで爆発するか、今はわからないからな。経験あるだろう。嫌な夢を見て朝起きたら水びだしだったこと」


 リルはリヒャルトの目をねめつけながらも、こくりと頷いた。


「そうなるのは仕方がないんだ。心配しなくても徐々になくなるよ。今だって泣いてるけど力を使ってないだろう。意識して抑えているんだよな。偉いよ」


 頭を掴むように大きく手を広げて、ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。リルの目には恨めしいような眼光はなくなっていた。

 ジーっと虫が鳴くような音をたててインターホンが鳴る。


「俺が出るよ」

 イアンは立ち上がり階段を上った。のぞき穴を確認するとカトリンがにこやかに立っている。両肩に大きな荷物を背負って、二人の男性を連れていた。


「ハーイ。さっきぶりね」

「カトリンさん。もうできたんですか」

「そうよ、私こうみえて凄腕なの。知らなかったかしら」

「はは……評判を超えてるんですね」


 カトリンは得意げに口角をあげて、軽くウインクをしてみせる。後ろについていた二人の従業員らしい男性に中へ運び込むように指示をだした。イアンは地下に降りてもらうのはやめておいた方がいいと判断し、玄関口に置いてもらった。カトリンから従業員は先に帰るよう言い渡される。


「あなたの娘さんのサイズを測りましょうか。どこか部屋を借りられる?」

「ああ、それなら脱水所がいいか。リル!上がっておいで」


 リルは両手足を使ってゆっくりと上がってきた。カトリンと目が合うと、そそくさとイアンの後ろに隠れる。イアンのシャツの裾をぎゅっと強く掴んで警戒していた。


「こんにちは、私はカトリンよ。よろしくね。リルちゃんって呼んでいいかしら」


 腰を下げて後ろを覗きこむような姿勢をとったカトリンにリルは警戒を解くことなく後ずさりするように隠れ続けた。


「まだ此処に来たばかりなんで……」リルをなのか、カトリンをなのか、どちらもやんわりと庇おうとした姿勢にカトリンは「構わないのよ」と返した。

「お土産があるのよ。お近づきのしるしにどうぞ」


 床に置いた大きい荷物の中から取り出したのは薄いコーラルピンクのうさぎのぬいぐるみだった。リルは目を大きく見開いている。警戒していた目を、あっという間に輝かせていた。ぬいぐるみから目が離せないようだった。


「可愛がってくれるかな?」


 ぬいぐるみを顔の前に持ち、うさぎの手を指で撮んで手を振るように動かしながら裏声で演じてみせる。シャツを強く掴んでいた手が緩み、ぬいぐるみを受け取った。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 リルはうさぎのぬいぐるみをじっと見つめてから、胸の中に閉じ込めるように抱きしめた。

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