22 死亡遊戯 ~命名~
「はは……何をこだわってんだか、俺は……」
なんで!? こんな時にまで自分のちっぽけな自尊心を守ってどうすんだよ? と嘲笑いたい。
「そりゃ、あのアリストラップのことか」
「ああ。あのアリストラップだよ」
俺はうなだれるようにして、こくりとひとつ頷いた。
「久しぶりに聞いた気もするが。そうかそうか……社会的信用もあったもんじゃねえからな」
「はは……散々だったさ」
マドマックスも言うように、時が経ってもやはり記憶に残るワードだったそれは、今は記録などが消され風化しているはずの嘘もない真実の秘密。
あの頃の社会でもまだ受け入れてはもらえなかった、本当に誰にも知られたくない俺の過去の過ちなのだ。
だがそれでも、第三者からすれば俺自らが招いた惨劇など、失笑を買う程度が関の山の隠し事――。
よって。
「さて、どうすっか。言い様によっちゃ、確かにすべてを失う忌まわしき過去とも言えなくはないが……」
声の主マドマックスには、至ってくだらないモノだろうか。
「……ローリーラット」
ローリーラット?
それは俺のことだろうか……と、覇気もなくうつむく顔をあげる。
「認めてやるよ。オレとの信頼関係を築けたローリーラットにゃ、ここを使わせてやる」
「……ほ、ほんとか!?」
意外だった。
てっきり、冷笑されつつ「残念だ、どうやらお前さんは冷たい客になる運命ようだ」とか死刑宣告されるオチだろうと半ば諦めていたのに。
「はは……なんか」
すげー嬉しいっ。
絶体絶命のピンチをこの手で切り抜けた感覚というか、俺やってやったぜ! の高揚がぶわっと。
だからなのか。
今にでも床にへたり込みそうになった。
不安と安堵のバランスがおかしくなった全身には力が入らない。
「ただよ、ローリーラット」
「なんだ? マドマックス」
「俺の可愛いリトルエンジェルの近くでお前を見かけようものなら、その時は客でもなんでもねえ、即座にぶっ殺すから覚えとけよ」
野太い声の啖呵には、「ヒャッハー、オレが串刺しにしてやんよ、ヒャヒャヒャ」とかの周りの声が呼応した。
「なんか……すみません」
そう囁くようにつぶやいた後、フロアの奥へと通された。
足をカクカクさせながら、マドマックスにこっちだと連れて行かれた先は、薄汚い壁と同系色の扉の前だった。
「先に部屋に入ってな。しばらくすりゃ、ピンクキャットも来るだろうよ」
ロックを解除したマドマックスが通路を戻ってゆく。
俺は去りゆく大男の背中を見送ると、恐る恐る扉に手をかけた。
ちなみにこの時の俺には、『隠し部屋』のプレートがかかる扉に対して、隠すつもりないじゃんと悪態をつけなかったくらいに気持ちの余裕なんてまったくなかった……。
飛び込んできた明るさに、少しだけ目が眩む。
暗がりだったフロアの味わいとは違い、洗練された雰囲気の部屋。
後頭部から足先までをカバーできる大きな座席が、ぽんと目につく。
備え付けの突起物――Aoi Neural Operation。
通称『A・N・O〈脳波コンソール〉』は最新型っぽい新しさ……。
流動するようなデザインのデスクには、光学仮想キーボードとモニターが中央と左右に設けてある。
素人目にもわかる、すんごい高スペックのデジタル端末環境……だった。
「思えば……ハッキングルームとか聞いた覚えがしなくもない」
俺はごくりと喉を鳴らす。
つまり――。
「どういうことだろうか?」




