23 死亡遊戯 ~アリストラップ~
――拝啓。ひとりぼっちの俺へ。
社会的問題にもなった『アリストラップ』――。
情報漏えいに端を発する社会の混迷は、被害者の多くを苦しませ最悪命を落とすまで追い込んだ。
また、結果として社会からのドロップアウト、引きこもりのキーワードが飛び交ったその年の失業率を増加させた。
それに至る被害が出始めたのが、10年近く前のあの頃からになるだろうか。
今でもはっきり覚えている。
よく晴れた夏の日。
『Alice』の完成を記念して誕生祭が催された。
その日から一週間後、俺はアリストラップの被害者として名を連ねた。
Malicious Software〈悪意があるソフトウェア〉。
略してマルウェアのアリストラップは、いわゆるコンピュータウイルスだ。
パーソナルコンピュータに感染するタイプだったので、当然俺のスマデでもその猛威を振るうわけだ。
そして。
当時のウイルス対策や駆除のソフトウェアでもまったく歯が立たない悪名っぷりはもちろん――。
腹ただしいことに、”他に感染しないウイルス”だったりする。
こうして思えば、これも巧妙なトラップだった……。
お陰で、その悪意への対応が疎かになっていたんだから、そうなんだろう。
結局、ウイルスに対抗するアンチウイルスソフトの開発も遅れ気味で配布は1年後のことだった。
――人の社会とは広がらない感染の脅威に対して割りと鈍感なのである。
そればかりか、次第に”感染するヤツが悪い”――みたいな風潮のほうはすぐに広まった。
任意の特定条件下でしか感染経路が認められない特殊なウイルスなので、自己責任は否定しない。
けどさ、悪者はあくまでもウイルスを作ったヤツだろうに……。
だから。
――やはり、憎むべきはアリストラップの『犯人』。
しかしながら、社会的問題を起こした製作者は未だ以って不明のままである。
それでも、ネットではこの二つの説が有力視されていた。
どっちもマルウェアとしてのプログラミングの高さに由来するものらしいが。
・「アリストラップ」または「アリスの悪戯」とも言われるだけあって、AI『Alice』が仕組んだ説。
誕生祭のメーンイベントとして、インターフェースモデル”アリス”が初お披露目となった。
その〈アリス〉からのサプライズというわけだ。
悪戯にしては度を越えていたものの、その時の彼女が学習不足でまだ人の社会がどういったものかを把握しきれていなかったとするなら頷ける。
悪意はなかったマルウェア――悪戯ってことだ。
・もう一つは『Alice』上等! とばかりに、世界のトップハッカー集団が挑戦状を叩きつけた説。
自ら高度なプログラミングを行ってもなんら不思議でもない彼女に対し、人間様の腕を見せつけるのが目的だったとかなんとか。
ちなみに、こっちは「アリスへの悪戯」と微妙にニュアンスの異なる別称かつ蔑称を用いるようだった。
両方有り得そうな説である。
しかしながら、どちらだろうと――。
あの日、あの時。
純粋に信じた俺の気持ちこそが罪なのだろうという思いは変わらない。
そして、周りからのあの冷ややかな目を思い出すと胸が苦しくなる。
笑い話にしてくれる奴らもいたが、そういう奴らに限って目が笑っていなかった。
被害妄想だろうが、見知らぬ人からもひそひそと後ろ指をさされた。
誰もが口には出さないながらも、その目がっ、その後ろ指がっ、こう言うのだ――っ。
――変態野郎……と。




