20 死亡遊戯 ~危ないお店~
「問題ないぜ」
ニヤリを付け加え、マドマックス? と呼ばれた大男は言う。
「ありがとう。それからハッキングルームの前に、情報変換機器をまた売って欲しいんだけど」
用件を付け加え、ピンクキャット? らしい少女は言う。
薄っすら煙たい地下フロア。
嗅いだこともない匂いが漂うそこで、ニタニタとしたヒャッハー族達に囲まれながらに……二人のやり取りを傍観するしかない俺。
そんな俺の横を通り抜け、アダ名なのか愛称なのか、はたまたコードネームなのかのピンクキャットが話し相手に歩み寄る。
「こっちのほうは難しい?」
「いいや、問題ないぜ。ただ一式ってのは無理だ。マイクロウェーブ板はあるが、演算処理装置のほうは切らしてる」
「これから……2、3時間くらいで手に入らない?」
「早くて三日後だ。悪いがこればっかりはどうしようもねえ」
「そう……」
黙り込む唇には、自身の細い人差し指がそっと押し当てられた。
そして、考え込む様子だったその視線が足元に注がれた。
「ねえ、クロム。相談なんだけど、拡張とかしてみたくない?」
ウロウロしていた犬型ポビロイドの動きが、ぴたりと止まる。
それから、ぶるんと身を震わすようにして動きを再起動。
「か――、か、か、か、カクチョウ! それをボクが? ボクにもそのような時が!?」
「いきなりだし、やっぱり抵抗あるよね……。けど、私だと規格がなあ……」
「拡張。なんて甘美な響きでしょうか! レノさん。それは外部部品の取り付けでしょうか!?」
「え、ええ。でも見た目が変わるような物じゃないから安心して。そうね……たぶん、拡張パーツは邪魔にならない程度に口の中に取り付ける仕様になると思うけど」
「是非ともボクに、その拡張仕様をお願いします!」
無機物の光沢を遺憾なく発揮し、クロムの目がキランと輝く。
ダメだ。
少女レノからの誘惑に完堕ちだ。
完全な堕落などまったく見当たらないにしても、これはもう、手懐けられてしまったと見たほうがいい……。
ハードウェア関連のバージョンアップとか改造に憧れるクロムにとって、そのエサに抗えずといったところか。
「んじゃ、そこのホビロイドに合いそうな物だけでイイんだな?」
「うん。デバイスだけでお願い」
「よろしくお願いします! マドマックスさん」
少女とワンコのお願いの後には、傍らのカウンターの中をずんぐりむっくりな大男が漁る。
そうして調達した物が手渡されれば、相手から受け取る数枚のカードがスマートデバイスで読み取られてゆく。
おそらく電子マネーカードの中身を確認していると思われる……。
慣れた手つきのそれが終わると、
「そこの隅の作業台を好きに使いな」
と案内があった。
なので言われるがまま――いいや、言われなくてもこんな所で一人ぼっちなんてのは心細過ぎるから、俺も少女レノとクロムの後に続く、続こうとしたんだよ。けどさ。
「それでだ」
壁にどん。
略して壁ドンのそこには、顔の前にぶっとい腕があって、ビクっとした俺をそのまま通せん坊する。
もちろん腕の持ち主は、ヒャッハー族の族長。
「初めての兄ちゃんにゃ……て、そんな歳でもねえか。オレと大して変わらねえお前さんにゃ、たとえピンクキャットの連れだろうとココの掟には従ってもらうぜ」
「る、ルール!? ヒャッハーさん――え? え!?」
さっきまでとは比較にならない威圧感でブルドックのような顔が睨んでくる……。
「俺のことはマドマックスって呼びな」
「は、はい、し、失礼しました。マドマックス族長」
「いちいち言わなくてもわかるだろうが、こういうトコで大切なものはお互いの信頼関係だ。わかるだろ?」
「はい、わかります。ごもっともです」
「で、だ。店主であるオレと客であるお前さんの間にゃ、今はまだそいつが足りてねえ」
「十分に承知しています、はい」
嫌な汗が滝のよう。
背中がびしょびしょになってる気がする……。
「だからよ。店を初めて使う客は、オレに秘密を教える掟だ。人間、他人に知しられちゃまずいものをひとつやふたつ抱えて生きているものだろ? それを担保にオレからの信用を得られるって訳さ」
「かはっ」
息苦しい。
なんの心構えもなかったので、突然胸の中をわしゃりと掴まれた気分だ。
奇しくも、バイオレンスなこの場所に似合いそうなとんでもない秘密話を俺は抱え込んで来てしまっている。
おおよそ他人に話せる機会なんて絶対にないだろうと踏んでいた、あのテロ話がチラつく。
いいや、このタイミングだとそれを喋れと言われているようにしか思えないくらいなんですけれど……。




