19 死亡遊戯 ~イクナ通り~
「けれども、どうにかするにせよ……」
逃げ出すにも、懸念がある。
・一つ。クロムのヤツから一緒に逃げ出す気配が感じられない。
なので、少女レノからの逃亡は、クロムを置き去りにしてしまう。
・一つ。どう贔屓目に見積もっても俺が走って逃げる体力<<<ヒューマロイドレノの追跡力、だろう。
・一つ。行動に移すタイミングを見誤った。
周りの人達に頼れない感じがものすごくする。
逃亡に失敗して「助けてくれ! ヘルプミー」と叫んでも、誰からも相手にされなさそう。
なぜならさっき、イカつい人がもっとイカつい人からボコボコにされていたのを目撃したが素通りしてしまった。
俺がそうであったように、当前のように周りも無関心を装っていた。
・一つ。逃亡の意思を明確にしてしまったら、事態が悪化してしまう気持ちでいっぱい。
・一つ。取り上げられている俺のスマートデバイスには全財産があるからして、それを勝手に使われないだろうか……と。
そんなには持ち歩いていないけど、できれば失いたくない現金な気持ちがある。
スマデのセキュリティなんて、ちょちょいのチョイで解除され引き落とされそうだもんなあ……。
以上の事から、まったく行動に移せないでいた俺。
そして、このウダウダが更なる後悔を招く。
少女の後ろを渋々追って踏み入れた通り――。
「こ、ここは、まさかのイクナ通り……なんてこった……」
無法の電気街でも一際悪名高い、立ち入ってはイケないと噂される場所。
「あそこには絶対に行くなよ」から発展、「イクナに行くな=命の保証はない」が定番の謳い文句だ。
目印は誰が建てたかわからないが誰にでもわかる、道のど真ん中に建つ『地獄の入り口へようこそ~Welcome to the hell~』のでっかい立て札。
ネットで見た時は、「なんつーダサダサのセンス(笑)」と冷ややかに笑っていたが、こうして目の当たりにしてみると身の毛もよだつおどろおどろしさがある……どうしよう。
「やべえ……やべえ……」
もうそれしか言葉が出ない。
立ち止まったら余計に寿命が縮む――そんな焦りに駆られ、竦む暇もなく足を前へ前へ進める。
気がつけば、少女レノの背中にべったりだった。
そうして。その背中にとん、と軽くぶつかる。
少女がとある陰険な雑貨ビルの前で立ち止まっていた。
「着いた、ここを降りて」
そうぶっきらぼうに言われ、目で指し示された。
そこには地下に潜る入り口が口を開けて待つ。
のぞき込むと、ひゅおおおおと不気味な物音を立てそうな薄暗い中に階段が伸びている。
「はやく、行って。あんまりここを使っているところ見られたくないから」
「お、俺がここに!? 先に行くのか!?」
問答無用とばかりに、ぐいっと手を引っ張られ階段へ放り込まれた。
なし崩しにそろりそろり降りてゆく……。
心臓をバクバクさせながら、そして、その心音が霞んでゆく……。
目眩で転げ落ちそうだ。
ここがきっと例の店だ。
または闇の組織シーなんちゃら……ヒューマロイド少女を始めとしたテロリスト達がうじゃうじゃいるアジトだろうか。
どちらにしろ、こうして引き返せなかった階段の先にロクなものは待っていないだろう。
そうして俺は、悪夢には違いない夢見心地で降り立つのだった。
天国と地獄の二択なら、地獄寄り。
鬼はいなかったが、トゲトゲのファッションを着こなす野郎どもがフロアに多数。
ナイフとかチェーンとかギラギラしたアイテムを持ち、全体的に黒のレザー素材が多い。
ド派手な髪の色とタトゥーはデフォルトのようで、彼らを俺流の言葉で言い表すなら――。
ヒャッハー族。
「ピンクキャットに連れとは珍しい……いいや、初めてか」
野太い声が言う。
カウンターからずんぶりむっくりの男がぬらりと姿を現す。
ヒャッハー族の族長らしい風格の男は、その視線を俺を通り越した後ろへと向けた。
「いろいろと予定にないことがあったの。それよりマドマックス。急で悪いんだけど、今から隠し部屋使えるかな」
*「マッドマックス」は誤表記になります。




