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18 死亡遊戯 ~噂の街~

 

 「人を襲っていたらしい様子」と「アリスネットのデータバンクにないヒューマロイド」。

 この2点からクロムは、カフェの更衣室で目撃した内容を『Alice』への報告事項とした。


 ただ、緊急を要さないと判断した報告の優先度は低く設定したらしい。

 それでもいずれ、少女レノの存在は『Alice』が知るところになるだろう。

 どう転ぶかはダミーのクロムの対応次第だそうだが、遅かれ早かれ問題のあるヒューマロイドとして、アリスネットを通じ警告警戒指示が発令される可能性が濃厚とクロムは考えるようだ。


 その事から、俺の口封じにはあまり意味がない、との見解である。

 少女がとことん隠したい情報の一端が、既にネットにあげられてしまった後だからな。

 なので、俺に「安心してください」とクロムは言うわけだ。


 だがよ、クロム。


 そうは言っても今俺達が連れて来られたここは、なかなかにそれとは真逆の危険地帯なんだぜ。


 ビル群が示すように人口密度も高いはずの街並み――にもかかわらず閑散としている。

 いや正しくは、まばらに人はいると言いましょうか、たむろっているといいましょうか、その意味では通りは活気ある模様です。


 昔々は日本屈指の電気街らしく、老若男女は問うものの人々で賑わったメッカの地。

 今は無法地帯ローレススラムとして名高い地。


 そんなこの辺りは、案の定、チョコまみれのスイーツくらいには悪い噂に塗れていて、その主成分は「犯罪の温床」となっとります。


 そして、噂の一つ。

 まずは前菜くらいに軽めのそれでも、ホビロイドの売り買いなんてものがここでは日常的に行われているとか。


 今は違法となっているそれだ。

 現行だと政府が引き取る制度のホビロイドも、世の中に出回った当初は売り買い専門店(ディーラー)も多くて、そこで安く買えたり高値で売れたりができていたんだけどな……。


 しかしながら物でもあるゆえか、お金がのほほんと出歩いているようなポビロイドの誘拐、強奪が多発したり――、個人所有枠を設けたりと対策しても業者認定されれば意味もなく、やっぱり不届きな売り買いが横行したり――、前所有者の情報漏洩&情報悪用が実質防ぎようがなかったり――、まさかのヒューマロイド売り出しニュースに人権団体さんの声がぐわっと大きくなったり――などなど。

 いろんな問題点が表面化してそれが重なった時期に、世論の動きが「民間業者及び個人間の売り買い禁止法案」を国会に発議させ議決、施行された。


 ちなみに、政府に引き取ってもらう際には二束三文どころか場合によっては、破棄費用とか込み込みでお金を支払って引き取ってもらう。

 それでも個人での所有枠が一つしかないので、新しいホビロイドを購入しようとすれば必要な手続きなんだよな。

 ま、だから違法でも、売る客がいて買う客がいての闇取引きが成り立つんだろう……。


 一般的には「AIも一つの命です。責任を持ちましょう!」のスローガンでおなじみの国際AI機構の勧める「譲渡」が主流である。

 もしホビロイドを手放そうとするなら、里子に出す感じで親類とか友達、もしくは欲しがっている人との登録情報手続きを行う。


 それで、俺はクロムを売りさばくつもりなんて毛のほどもないわけで、至って場違いな場所にいるのだ。


 そう、場違いなのだ――なのだが。


 メインディッシュな噂の一つである「殺人の請負はじめましたの店がある」を視野に入れれば、それはもう相応しい場所に来ていると言わざるを得ないのやも。


 正直、殺しの依頼を受けるみたいな物騒な噂を真に受けたくはない。

 でもさ、情報社会での犯罪としてネックとなる〈ID〉のデリートも行えるらしいこの場所だからこその信憑性がある。

 肉体的だけじゃなくデータ上でも完全抹消。

 そんな殺し屋プロ御用達店があってもおかしくないだろ?


 もちろん、善良な市民の俺が誰を亡き者にしてくれなんて思うことはないので、一生かかわらずに済むだろうもの――がしかし、前をゆく少女にはそれが目的のような気がしてならない。

 確実かつ記録要素も残さず俺を始末する気だ、とやんわり……いやいや、ますますそうとしか思えないんだけど……。


 そんなこんなで、移動手段を徒歩に切り替え、自殺の名所とは聞かない街を歩く俺、犬、少女。

 夕日に向かう進行方向順に並び替えると。


 先頭を、裏路地の怖そうな雰囲気の中を意気揚々と突き進む制服少女レノ。

 次いで、どういうわけか楽しそうにその後をぴったりついて行く犬型クロム。

 殿しんがりは、別に努めたくもないままに、ちょい離れてくたびれた歩みで人型おっさんがついて行く。

 そして。


「どうすっか……」


 ドライブ終了時からずっと抱いてきた迷いを俺はここでも口にしていた。

 手錠はない。

 この好都合な状況も踏まえれば……やるしかないだろうことは明白だった――。


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