17 おっさんは役立たず
クロムの血迷った発言。
俺がその真意を黙々と探る最中も、時は無情に流れてゆく。
つまりは束の間、俺は蚊帳の外だった。
「……クロム。悪いけど、それは受け入れられない」
「理解に苦しむものでしたでしょうか?」
「君がパートナーと一緒にいたい気持ち……それも考えた上での結論よ。それにこっちの人は見るからにアテに出来なさそうだから」
隣から、なんか嫌われているなあ……の気配を感じた。
「レノさん。リョウは意外と役に立つと思いますよ。もちろん、高望みは絶対に無理ですが」
「秀でた技能や特技でも持っているのかしら? こっちの中肉中背の人は」
「いいえ。リョウにはお尻で小物をはさめる以外に、これといった技能も特技もありませんね」
「なら、政府関係者にパイプでもあったりするのかしら? こっちの中年男性さんには」
「いいえ。リョウは無駄に歳を重ねているだけで、これといった人脈は期待できないですね……それでも、対話はできますよ」
「……私だって話し相手くらいは選ぶ。君はいいの。でも、こっちの人は」
ふう、と少女レノが吐息を漏らす。
そして、俺が身構えていた――呆れかえったようなため息以上の冷ややかな眼差しがあった。
会話相手のクロムを一瞥するでもなく、突き刺すような睨み。
言わずもがな、俺に対してのそれだ。
「じ……自分で言うのもアレだが、俺には俺の良さがしっかりとあるんだよ。あと、そう、あとアレだっ。割りとデリケートな男だから、ちょいちょい”こっち”呼ばわりされるとチクチクくるんですよ。君にはおわかりいただけないかもしれないが、割りと嫌味な言い方なんですよ。繊細なんですよ俺は」
「ほんと、全然ね」
「な、何がだよ」
「身体的な能力はアスリートにも引けを取らない私のほうが明らかに上。唯一求めてもいい利用できそうな人脈も持っていない……。こんな役立たず、私は必要としないのっ。ここまではっきり言えば分かるでしょ。理解不足のお・じ・さ・ま、でも」
くそ。
くそくそくそ――こんな小娘にっ、皮肉めいた罵倒のはずなのにっ、こんな状況なのにっ。
何か新しい性癖に目覚めるようなあああ、そんな感覚がしなくもなかったああああ嗚呼。
加えて、初めての響きゆえにだろう。
「おじ様」をワンモアプリーズしたい衝動にかられてしまううっ。
「くそっ。さっきから下手で聞いてりゃ。そっちこそ全然なんだよ、君はっ。あと、お前もだクロムっ。俺がテロリストなんかになるわけないだろっ。それを、俺を無視して勝手な話をっ」
「それでですね。レノさんは言いましたよね」
「ぬがっ。お前ってヤツは舌の根も乾かないうちにっ。怒るぞ、本当に怒るぞ俺はっ」
「ほんと、うるさい人。おじさんは黙っててよ」
「うぎぎぎぎいいい。そこはおじ様でしょうがあああ」
こいつら、こいつら――二人して俺をおちょくってやがるな、そうだろ、ええ? そうなんだろ!?
大人げないとか暴力とか関係なく、拳を握ってもいいよね、ゲンコツは正当だよね!?
「レノさんは言いました――人の命を奪う時に恐怖があると。当然ボクにもあります。ただし、リョウがもし側からいなくなると仮定した場合にも、それがありました」
怒り心頭の俺には、クロムが何を言わんとするのかすぐには飲み込めなかった。
だが飲み込めてしまえば、昂る気持ちは、す、と収まり、それからまた、ぐ、と湧き上がる。
「クロム、お前……」
感情が相手の想いを理解する。
振り向く後部座席。クロムの無機質の瞳がどこか愛らしい。
「……分かった。仲間になるんだし、クロムのその気持ちは……尊重しようと思う」
俺とクロムとの間にある絆を見て、少女が折れるようだった。
正直……俺の命を救うためだとしても、テロリストの仲間入りでどうにかしよう作戦なんて賛同できない。
でも、いいさ。
俺を大切だと思っていた相棒の知恵なのだから。
俺はその気持ちで十分、前向きになれた。
あとは俺がどうにかこうにか。
「でもね、クロム。それでも、こっちの人がこれから死ぬことは決定事項だから」
「ちょ、おま――、この人でなしめええええっ」
少女に噛み付いた。
むろん、非難の意味のそれでだがっ。
自分の生死もそりゃ重要だ。けど、クロムの想いをさくっと踏みにじった物言いに憤るのだっ。
「レノさん、ボクはリョウを亡き者にしてまで口を封じる必要性はないと考えます。なぜなら」
「なぜなら、ダミー以前のアリスの審判があるから、でしょ」
「はい。その通りです」
「そこまで考える君だからこそ、彼は死ぬべきだったと納得してもらえると思う。それこそ変更すべき必要性がないから」
同じAIなのにこうも違うとは。
一周回って無機質ツラにも愛嬌があるAI。方やキリングマシーンを思わす冷徹なAI。
車は重々しい空気に包まれながら、高速を降りるようだった。




