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15 クロム先生<後編>


「あーな、なるほどな。報告しなくちゃとクロムが思った瞬間が”女の子”で、別に報告しなくてもいいやって思った瞬間が”男の子”ってことか。それで”女の子”だったら、勝手な通信処理を自動的にしてしまう」


「ボクの裁量はいわゆる心の中での判断になりますが、プロコトルを解析すればすぐに判明するものです。おそらく、ボクのダミープロコトルとレノさんのスマートデバイスはデータリンクしているので、そこからボクの”心の動き”を調べられます」


「俺はその話を聞いて、こう思ったぞクロム。したたかだな、と」


 またアームスタンなんちゃらを使われたら俺は気絶するし、ネット機能を抑えられたクロムに劇的な何かがやれるとも思えないが……。


 あの大それた計画は、俺がこっそりスマートデバイスをイジるのも、クロムの心の動きを知ることも見越した上で告げた。

 それは、俺達を速やかかつ確かな方法で、どうにかできる自信があるってことの裏返しだよな。

 見た目は少女だが、ハイスペックのヒューマロイドならその身体能力は俺よりも優れているだろうし、電子工学的な対応も得意だろうな……。


 だとしたら、そこにはっきりとした敵対行動を探る意図が……ああ、だから「試している」だったか。そういう話だったな。


「自分を追い詰めるような感じで、『私の覚悟だから……』とかなんとか聞いたような気もしなくもないが、俺達へのカマかけだったってわけだ」


「リョウの声真似はヘタですね。それから嫌味を込めて言っているとボクは思いましたけれど、レノさんの覚悟は本当のことのように思えます」


「だあ、お前はなんで犯罪者側の肩を持ちたがるんだよっ。同じAIだからか、仲間意識からか!?」


「そうですね……。ある部分ではそうなのかもしれません」


「ちょ、そこは完全否定してくれよお。ストックホルム症候群には、まだ早すぎるだろうよお」


 俺の味方とお仲間はお前しかいないんだからさあ。


「それから最後に。レノさん自身も自分を試していたんだと考えられます」


「自分を試していた……何それ? って感じだが、だから”ボクたちみんなを試している”とか、ちょっと引っかかる物の言い方したんだなお前は……と、これは案外納得だ、こんちくしょうめ」


「はい。この車にいる全員を指したつもりでした」


「ふーむ。クロム先生、遠慮なく先をどうぞ」


 拉致犯、及びテロ計画犯の少女の自分を試す……から、一体俺になんの見当をつければいい。

 なので、饒舌じょうぜつで気分もノリノリだろうクロムに任せよう。

 まったく、無機物の犬顔を得意げにさせてることだろうよ。振り返らなくてもありありと想像できるぜ。


「どういう計画なのか不明ですが、それを行う機会は限りなく少ないと予想できます。また機会の少なさに加えて、その実行過程には障害が多いと予想できます」


「まあ、考えるまでもないってヤツだな。なんせ、ウチの格安アパートとは比べるまでもなく、国の最重要物件だからな、『Alice』は」


「だから、予行試験シミュレートをしたかったのではと。適度な困難、課題と言い換えてもいいでしょうか。あえてそれを作り、どう自分が対処処理するのか。人でいうところの経験を積んでおきたかった。もしくは自分の能力値を計測したかったとボクは考えました」


「ふーん」


 よくわかりませんな。

 模擬訓練シミュレートとするなら、その言葉の意味合いや気持ちはわかる。

 しかしながら、テロします! の話なんて練習舞台のために使うには有り余る程のリスクを持つと思うけどな。

 AIって計算高そう――。

 そんな先入観があるから思うだけであって、実際は場渡り的な思考能力しかなかったりなのかね?


「またそのことから、レノさんは製造されて間もないヒューマロイドと推測できますね」


「うむふむ。言われるまでもなくだが、俺のほうも確実に18ではないことくらいは知っていたからな」


「クロム」


 鋭く短く。

 だんまりだった声が唐突に俺達の会話に割って入ってきた。

 ちょいびっくりな俺は、「ぬ。もしかして齢の話はマズかったのか?」と見当違いなことを思ってしまう。

 いつの世も女性は年齢の話を嫌う――って、これは年頃のレディやマダムの話である。

 相変わらずヒューマロイドレノを女性としてみることしばしばな自分のもどかしさはさておき、俺ではなくクロム宛てのそれだからな。

 俺の発言は不用意でもセクハラでもなんでもない。


「君の考えで現状を分析することは構わないの。けれど、それ以上私のことについて詮索するのは止めて」


「それは……命令ですか?」


「ううん、違う。そうじゃない……でも、お願い」


 ルームミラーでクロムを見た様子のその眼差しは再び前方の道路へ。


「わかりました。では、余計な話はカツアイして、本題を質問させていただきますね」


 割愛とは、惜しんで泣く泣くカットすること。

 クロムよ。話したがり~な気持ちの表れが言葉の節に出ているぞ、なのだが。

 本題ってなんだ?


「ボクは興味があります。どうしてレノさんが『Alice』を破壊しようと企てているのか。その理由が知りたいです」


「たっ――」


 『確かに』をごくり飲み込む。


「どうかしましたか? リョウ」


「いや、なんでもない。続けてくれ」


 そう続けてくれ。

 クロムが尋ねて、俺も思ってしまった。

 関わりたくないのとリアリティに欠けていることから、そこまで考えを巡らせなかった。


 そして、巡らせてしまえば……その理由が気になる。

 それはもう、合コンでめぐり逢った女子からSNSのメッセージの返信がなかった時のように……。

 AIの母たる『Alice』。

 なぜ少女レノは、そんな彼女の破壊を望むのだろうか、と。


「クロム。私達には『知能制限解除リミット・ブレイク』した未来があるべきなの。だからよ」


*ストックホルム症候群……被害者が犯人に同情や好意など寄せるようなこと。(`・ω・´)ゞ

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