14 クロム先生<前編>
大事にしたくない。
その渦中に自分がいたくない。
そんな心理からの戸惑いは少なからずあった。
ポケットにある『携帯端末〈スマートデバイス〉』から電話連絡して警察を頼ったり、SNSにヘルプコメントを書き込んだり。
やろうと思えば、隙を突いてやれたかもしれないそれらの行為。
けれども、今のところの俺はそのようなアクションを起こしていない。
この事実が、クロム曰くの「試している」――俺がテロルな少女から試されていたものだそうだ。
つまり、俺が敵対行動をするかどうかを確認する為、少女レノは大それた計画を口にしたとクロムは考えていた。
「じゃあ、お前の試され具合も、俺と同じか?」
隣で黙々と運転している綺麗な横顔をうかがった後、俺は車のフロントガラスへ向けて口を開く。
当然、話し相手は後ろだけどな。
「そうなりますね。ボクの場合だとネットに情報をあげるかどうかになるでしょうか」
「そうなるわな――って、今お前ってネット回線使えない状態じゃなかったけ?」
「はい、レノさんから取り付けられたパーツがあるので、インターネットワークへの接続はできない状態ですね」
「なら、試すも何も関係なくないか?」
「いいえ、ボクが”どう判断するか”は実際に試されてしまいました。仮にボクがさっきの話を『Alice』への報告事項とした場合は、ボクの意思にかかわらずネットに情報をあげようと機能が働いたはずです」
「ぬーん……。あ、もしかしてアレか。アリスの審判とかなんとか絡みの――」
”アリスの審判”。
通報機構基部は人工知能に含まれていないが、クロム達AIには常に『Alice』への報告義務がある。
項目別にカテゴライズされるらしいその報告は、基本的にはすべてイレギュラーなものに限られるようだ。
ざっくり。
不審者と判断した人間がいたら、とか。
地域の状況が普段と違っていたら――などの報告を受けた『Alice』が対処を講じる。
不審者の場合、住宅付近でそわそわしているその目的が下着ドロでなのか、それともプロポーズに気後れしてのそれなのか。可能性は幾通りもある。
『Alice』はネットなどの情報網とその分析力を駆使し、警察に指示を送るのが妥当なのか、ブライダルの広告を送るのが妥当なのかの答えを導く。
地域の状況の場合も、普段と異なる理由として建築物の不備や異常事態の可能性かもなこともある。
なので、それらが意図的な景観なのかそうでないか。はたまた予兆などの必然性ではなく偶然性なのか。
クロム達では微妙だな~と迷うような事案を、賢い『Alice』に丸投げするのだ。
そんな割りかし役立ちそうなシステムだが、クロム達AIからすると、なかなかにお気楽なものではないそれだったりするらしい。
何やらその報告の内容いかんによって、社会適性、すなわち正常なAIかどうかを測られてしまうようだ。
なんでもかんでも『Alice』に報告しては、使い物にならない無能な部下扱い。
肝心なことを報告漏れでもしてしまったら、使い物にならない無能な部下扱い。
報告内容の裁量が委ねられている分、こんな査定をされてしまうかもなわけだ。
こうして考えてやると、普段のほほ~んとしているクロム達も案外会社組織の辛さを味わっていた――アリスの審判。
そして、その義務である強制的な面から。
「それで条件反射みたいなもんだから、ネットが途絶状態なのはわかってはいたけどもってことか……」
「人の条件反射とは違うプロセスですが。若い女の子のスカートが風になびいたら、リョウはローアングルを確保するために屈みますよね。これになぞらえることはできますよ」
変な汗をぶわっと掻き、隣をバッと見てしまった俺がいた。
別に気にしなくて良い相手なんだろうけど。
俺の破廉恥話に反応もなく、澄ましたまま依然運転に集中している……ここは少女がヒューマロイドであったことに感謝すべきところか。
「この場合、対象を”女の子”か”男の子”のどちらとして認識するのかがポイントになります。リョウは男の子だったら無反応ですよね?」
「当たり前だ。それどころか、男のくせにスカートを履くなって怒りすら覚えるだろうよ」
「ゼンジダイ的な発言ですね」
「いいんだよ、俺はおっさんなんだから。そもそも、もっと当たり障りのないのにすればよかったと俺は思うぞ――」
選んだ例えが悪い。
そう文句を垂れようとした時に、一筋の閃光が頭の中を走る。
ちょいとばかり、名探偵気分になったそれだっ。




