第9話 逆流気流送出管と真鍮配送カプセル(品番 No.022)
ペク・ユラが悲壮な顔で雨の中を突っ切って去ったあと、闇がすっかり降りた夜の九時頃。
店の表の扉が開き、伝令の少年シオンが荒い息を吐きながら駆けこんできた。少年が差してきた黒い雲の傘(No.017)の先からは、14層の近くまで上がって戻ってきたばかりのように、灰色の酸性霧がかすかに立ちのぼっていた。
「店主さん! 大変です! 14層へ上がる中央階段と昇降機が、40層の白い甲冑の騎士たちに完全に塞がれました!」
シオンが地団駄を踏みながら作業台の前へ駆け寄ってきた。
「さっきペク・ユラ姉さんがギルド員たちを連れて12層の封鎖線の前で騒ぎを起こしてくれたおかげで、やっと近くまでは行ってみたんですけど、蟻一匹通れないように塞いであったんです。しかも14層の大聖堂の鐘楼の上には、逆さに噴き上がる豪雨の雲が真っ黒に押し寄せていて! 昨日僕が拾ってきたあの折れた刃の持ち主に、これを返さないといけないんじゃありませんか?」
少年の視線が、作業台の上のビロードに置かれた、黒赤い二重螺旋の血溝が鮮明に刻まれた完全な黒銀の短刀(No.020)に触れた。
俺は落ち着いてシオンの肩を軽く叩きながら、作業台の引き出しから掌ほどの長さの円筒形の真鍮気圧カプセル(No.022)をひとつ取り出した。かつて上層部の工房の間で、図面や小型の遺物を気流管でやり取りする際に使っていた旧式の配送筒だった。
「シオン。上がる階段が塞がれたときは、もともと上から下へ落ちていた道を逆さに使えばいい」
「上から下へ落ちていた道ですか……? まさか廃棄物落下口のことですか? でもあそこは果てしない断崖の通路なのに、どうやって14層まで品物を送り上げるんですか?」
俺は微笑む代わりに、今朝カン老人の77層のランタン(No.021)の底から回収しておいた爪ほどの青白い結晶——「77層上昇気流核」——を右手のピンセットで摘み上げた。
「近頃の14層は雨さえ逆さに噴き上がるのだ、77層の上昇気流核を取りつけてやれば、真鍮のカプセルひとつくらい矢より速く駆け上がるさ」
俺は黒い木綿の布を巻いた左手で真鍮のカプセル本体を掴み、内部に衝撃を吸収するベルベットの布を敷いてから、復元された処刑人の銀の短刀(No.020)を隙間なく収めた。
続いてカプセルの下部の噴射ノズルの溝に77層上昇気流核をはめこみ、素手の右手で精密ドライバーを回して、気圧ロック装置の目盛りを正確に14層外郭のゴシック鐘楼の高度に合わせた。
カチッ、チッ——
ロック装置が噛み合うと、真鍮のカプセルの表面のルーン文字が青い光で脈動し、今にも天井へ飛び上がらんばかりに俺の左手の中で軽快に振動した。
「さあ、配達屋の坊主。夜間特送の受付に行くぞ」
俺は外套を羽織り、俺の左肩の上へひょいと飛び乗った銀色の毛玉、ハルと共にシオンを連れて店を出た。
夜の十一時半、1層外郭の巨大な垂直廃棄物落下口・第一換気展望台。
直径数十メートルに及ぶ漆黒の垂直空洞の下から、近頃封印の揺らいだ上層部の影響で、巨大な逆流気流が雄大な風の音を響かせながら空へ向かって噴き上がっていた。
ゴォォォォッ——!
手すりの前に立ったシオンが、下から上へ吹き上げてくる激しい風に帽子を押さえながら、遥かな闇の上方を見上げた。
「店主さん、いまあの14層の鐘楼の上で、誰かが戦っているんでしょうか?」
「どうかな。少なくとも俺の知る刃の持ち主たちは、自分の手に馴染む武器さえあれば、そう簡単に死ぬような連中じゃない」
俺は素手の右手でカプセルの底の気流核の撃発ピンを押し上げてから、黒い木綿の布を巻いた左手を手すりの外の宙へ高く伸ばし、真鍮配送カプセル(No.022)を上昇気流のただ中へ解き放った。
ガチャン——シュアァァァッ!
撃発ピンが外れた瞬間、真鍮のカプセルの尾部から、青白と黄金の入り混じった強烈な気流の炎が爆ぜ出た。
カプセルは垂直落下口の巨大な上昇逆流気流に乗り、夜空を裂く一筋の流星のように、瞬く間に遥かな14層の闇の中へと駆け上がっていった。
(『塔にただ一軒の古道具屋』第9話 了)
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