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第8話 抹消された13層の遺言と二つの遺物の共鳴

復元された処刑人の銀の短刀(No.020)を油の水槽から引き上げ、乾いたビロードの上に置いた瞬間だった。


ヴゥン——キィィン——!


銀の短刀の黒赤い二重螺旋の血溝から噴き出した波長が作業台全体を震わせると、その隣に並べて置かれていた白銀の黎明・副隊長の遺品二つ——11時47分で止まっていた銀の懐中時計(No.018)と六角形の銀の聖標(No.019)——が同時に眩い青白い光を放った。


「店主さん! 時計と聖標が……!」


ペク・ユラが驚いて一歩後ずさった。

銀の懐中時計の蓋がひとりでに弾け開いて秒針が狂ったように逆方向へ回り始め、聖標の裏面に刻まれていた[ XIII — 落下口閉鎖区域 ]という文字が、宙へ青い炎のように浮かび上がった。


昨日までは時計のぜんまいが焼き切れて再生されなかった「最期の3秒の記憶の欠片」が、いま完成した銀の短刀に染みこんだルカン・ヘイルの心臓血の波長と共鳴し、封印から解き放たれたのだ。


俺はためらわずに黒い木綿の布を巻いた左手を伸ばし、共鳴する時計と聖標の真ん中を同時に覆った。


「ペク・ユラさん、目を閉じずにしっかりと見てください。あなた方の副隊長が命を賭して下の層へ投げ送った、最期の記録です」


俺の左手の木綿の布の下で青い火花が散ると、作業台の上の宙に水蒸気のように半透明の幻影が浮かび、雨音の混じった男の切迫した声が再生された。


*


ザザッ——ゴォォォン!


幻影の中の場所は、18層ではなかった。

14層・沈黙の大聖堂の地下焼却場よりもさらに深い下、巨大な鉄鎖と鉛の印章で封鎖された古代の石造りのアーチ門の前だった。アーチ門の頂には、鏨で削り取って消されたローマ数字のXIIIの痕跡が鮮明に残っていた。


半ば開いた石門の隙間から、水に沈んだ巨大な地下都市と、その水面の上を亡霊のように徘徊する数十体の「真っ白な雨合羽を着た影」が映った。


『……聞こえるか、本部! こちら先発隊副隊長カン・テゴム! 13層は地震で崩壊したのではない! 40層の白の聖女が……心拍数が0になり感情を失ったかつての上層登攀者たちを白い雨合羽の回収人に改造して閉じこめるため、十三番目の層全体を酸性水で水葬にしたのだ!』


副隊長の絶叫が終わらぬうちに、闇の上方から白い光の聖槍が一本飛来し、彼の背後を無惨に貫いた。

血を吐いて床に倒れた副隊長の目の前に、死体溜まりの山の中でたったいま胸の寄生体と共に目を開いた蒼白な男——ルカン・ヘイル——が這い出してきていた。


『ルカン……! 貴様、生きていたのか……! いかん、いま40層の天穹の鏡が貴様の心臓の音を捜している!』


死にゆく副隊長は血まみれの手で自分の胸から六角形の銀の聖標(No.019)を引き千切ると、渾身の力でルカン・ヘイルの右手の甲の十字の傷の上に聖標を叩きつけた!


ゴシャッ——!


聖標の中心部が凹んで曲がりながらルカンの手の甲の骨に白い骨粉が食いこみ、副隊長の残された生命力が、聖標の銀色の結界をルカンの傷跡の奥へと押しこんだ。


『俺の聖標の隠蔽刻印を貴様の手の甲に打ちこんだ……! これで少なくとも1年は、天穹の鏡の追跡を欺けるはずだ。生き延びろ、ルカン! 生き延びて、あの40層の偽善者どもを……!』


副隊長は最後の力を振り絞って、自分の銀の懐中時計(No.018)と血まみれの聖標(No.019)を、床の垂直廃棄物落下口の穴の下へと投げ入れた。


*


パァァァ——


三度目の秒針の音と共に、宙の青い幻影が嘘のように散った。

店の中には再び雨音と壁時計の音だけが残った。


作業台の前に立っていたペク・ユラは両手で口を押さえたまま、真っ白に血の気の引いた頬の上に大粒の涙をぽろぽろと零していた。

彼女があれほど尊敬していた副隊長は、18層でむなしく行方不明になったのではなかった。塔の最も醜悪な秘密を暴き出し、無実に裏切られて捨てられたかつての部下ルカン・ヘイルを生かすため、自らの認識票と最期の3秒の時間を捧げたのだ。


「……そうだったのですね。副隊長が最期まで守ろうとされた人が、あの14層の下級審問官ルカン・ヘイルだったのですね」


ペク・ユラは手の甲で涙を荒々しく拭い取ると、作業台の上の銀の懐中時計と聖標を両手で大事に収めて胸に抱いた。そして俺の前で腰を九十度に折り、深く頭を下げた。


「店主さん、このご恩は白銀の黎明の名にかけて一生忘れません。いま直ちにギルドの本隊へ戻り、40層監察団の支援要請を全面拒否して、外郭の封鎖線を揺さぶってみせます!」


(『塔にただ一軒の古道具屋』第8話 了)

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・BOOTH(公式書庫): https://spire-archive.booth.pm/items/9073638

・note: https://note.com/seodoyeon_spire/n/n17ce12ece663

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