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第7話 折れた銀の短刀の復元と黒銀の血溝(品番 No.020)

午後になると、1層広場の路地にも冷たい秋雨が降り始めた。

雨に濡れた石畳を蹴る慌ただしい軍靴の音が止まると、店の表の扉が荒々しく開かれた。


「店主さん、いらっしゃいますか?」


肩に雨粒を玉のように浮かべた白銀の黎明ギルドの精鋭剣士、ペク・ユラだった。

普段なら落ち着いて呼吸を整えてから入ってくるはずの彼女だったが、今日は蒼白に強張った顔で扉を閉めるなり、作業台の前へ歩み寄ってきた。


「たったいま、ギルドの上層連絡網を通じて緊急特報が降りてきました。今朝方、40層大聖殿の白の聖女セラフィーヌ・アッシュコムが、直属の特務監察団を14層・沈黙の大聖堂へ直接送りこんだそうです!」


俺は中和水槽から引き上げて乾いた布の上に置いてあった、折れた処刑人の銀の短刀の破片(No.020)を見下ろしながら顔を上げた。


「40層の白の聖女が、直接監察団を送ったというのですか?」


「はい。監察団長カシアンの率いる聖騎士三十名が、14層の昇降機と南北の回廊を完全に封鎖しました。表向きの理由は異端審問の監査だそうですが……うちのギルド情報部の話では、この1年の間に死体溜まりから戻った者たちと汚染された処刑人を残らず炙り出して焼却せよという秘密指令が下ったそうです」


ペク・ユラが作業台の上に置かれた銀の懐中時計(No.018)と六角形の銀の聖標(No.019)を見下ろしながら、唇を噛んだ。


「うちの副隊長が最期に残された手がかりのある、あの14層の大聖堂です。もし監察団が大聖堂の地下をすべて焼き払ってしまったら、副隊長がなぜ亡くなられたのかも永遠に葬られてしまいます」


俺は黙って作業台の上のガラス棚を見上げた。

朝に鉛の蜜蝋で封じておいた[14層:沈黙の大聖堂]の試薬瓶の中で、赤い霧がまるで檻の中の獣のように激しく渦巻き、ガラスの壁を叩いていた。


三日に一度ずつ血を分かち合い、辛うじて命をつないでいた二人。

14層の下級審問官ルカン・ヘイルと、この折れた銀の短刀の持ち主である処刑人イヴ・ヴェスパー。

今夜から大聖堂が完全に封鎖されたのなら、三度目の夜が訪れるとき、二人は折れた刃ひとつで40層の聖騎士たちと怪物どもを同時に相手にしなければならない。


「ペク・ユラさん。もしや今日の午後、少しお時間はありますか?」


「えっ? 時間はありますけど……どうかなさいましたか?」


「火種を一緒に見守ってください。お客さんが預けた刃を時間どおりに返すには、今日の日が暮れる前に鍛え上げなければならなさそうですから」


俺は作業台の下の奥深い鉄箱の錠を外し、黒いビロードで包んだ掌ほどの長さの重厚な金属のインゴットひとつと、象牙を削り出した短剣の柄の型を取り出した。

光を吸いこむように深く滑らかな黒色を帯びた金属——俺がかつて上層部を降りるとき、最後に携えてきた「99層の黒銀のインゴット」だった。


「これは……上層部の競売場でも言い値で取引されるという黒銀のインゴットじゃありませんか! 隅で拾ってきた折れた短剣の欠片を直すのに、こんな貴い金属を使われるというのですか?」


ペク・ユラが驚愕して訊ねたが、俺は答える代わりに作業台の脇の小型炉の鞴を踏み、白い炎を熾した。

黒い木綿の布を巻いた左手で折れた銀の短刀の切っ先(No.020)と99層の黒銀のインゴットをやっとこごと並べて掴み、素手の右手で重い鍛造槌を持ち上げた。


カン——! カン——! カン——!


槌が打ち下ろされるたびに、単なる火花ではなく、刀身に染みこんでいた二筋の血——処刑人の黒赤い屍毒と審問官の非人間の心臓血——が黒銀のインゴットの目を伝って猛烈にぶつかり合った。

普通の銀であったなら、互いを喰らい合う二つの毒性と魔力の衝突に耐えきれず、粉々に砕け散っていたはずだった。だが99層の深淵の圧力に耐え抜いた黒銀は、二人の荒々しい血をそのまま呑みこんだまま、断たれていた刀身と柄の茎を、ひとつの滑らかな黒銀色の刃へと繋ぎ合わせた。


熱せられた刀身が完璧な短剣の形を備えると、俺は槌を置き、右手にいちばん鋭い細工用の鏨を持ち直した。


「毒を宿した刃が持ち主を害さないようにするには、血が巡り抜ける道を通してやらなければなりません」


俺は息を止め、まだ赤い熱気の引かない黒銀の短刀の刀身の真ん中に、細工用の鏨の先を打ちこんだ。

右手首の微細な力加減だけで、刀身の根元から切っ先まで、二筋の溝が互いを抱き合うように回転する「二重螺旋の血溝」を、一寸の狂いもなく彫り進めていった。


ジュウウウッ——!


俺の彫った二重螺旋の溝に沿って、刀身の内に閉じこめられていた処刑人の屍毒と審問官の心臓血が黒赤い糸のように噛み合って流れ、奇妙な脈動を起こした。

単に斬り裂くだけの武器ではなかった。二人の血が共鳴したときに初めて完成する、心臓の止まった上層部の怪物さえ一息に斬り伏せられる、ただ一振りの破滅の剣。


俺は復元された黒銀の短刀を持ち上げ、冷たい中和油の水槽の中へ垂直に沈めた。


ジュワァァァッ——!


白い水蒸気が作業台の天井まで立ちのぼり、鍛え上げられたばかりの銀の短刀から、冷ややかで妖気を帯びた黒赤い眼光が煌めいた。


(『塔にただ一軒の古道具屋』第7話 了)

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