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第5話 折れた処刑人の銀の短刀と栓の開いた試薬瓶(品番 No.020)

ペク・ユラが蒼白になった顔で聖標と審問記録の写しを収めて帰ったあと、店の中には再び壁時計の秒針の音だけが残った。


俺は修繕台帳第一号を開き、十九行目を埋めた。

[品番 No.019]

品名:潰れた白銀の黎明・副隊長の銀の聖標

修繕内容:深淵の屍毒結晶の剥離および形状復元。

備考:12層と14層の間、抹消された13番目の層の手彫りの刻印および十字の骨粉の痕跡を確認。


台帳を閉じようとしたちょうどその時、店の裏口のほうの小さな窓枠を叩く音がした。


コン、コン。


窓を開けると、伝令の少年シオンが息を切らしながら、雨に濡れていない黒い傘(No.017)を畳んで手に立ち尽くしていた。少年の手には、古びた麻布でぐるぐる巻きにされた細長い鉄片がひとつ握られていた。


「店主さん! 今日の午後、14層の大聖堂外郭の下水溝のほうへ連絡文書を配達しに行ったら、排水路の鉄格子の隙間にこれが挟まっているのを拾ったんです。ただの鉄くずじゃなさそうで……もしかして店主さんの役に立つかと思って!」


俺はシオンの差し出した麻布を受け取り、作業台の上で広げた。


布の中に入っていたのは、柄もなく切っ先だけが三寸ほど折れた銀の短刀の破片だった。

刀身の表面には、沈黙の教区の上級処刑人にのみ下賜される「黒の断頭台」の紋様が半分ほど残っており、鋭い刃先には二人の血がこびりついていた。


ひとつは、深淵の屍毒に汚染されて黒赤く焼け焦げた女の血。

そしてもうひとつは……その屍毒を貪るように呑みこみながら生き物のように蠢いている、人のものではない心臓血だった。


「シオン」


「はい、店主さん?」


「来週からは、14層の南回廊のほうの配達は別の伝令に回すようにしろ」


俺は財布から銀貨十枚を取り出し、シオンの掌に握らせた。


「お前が拾ってきたこの刃の持ち主たちが、近いうちにあの大聖堂の床をずいぶん騒がしくしそうだからな」


シオンがぺこりと頭を下げて帰ったあと、俺はピンセットで折れた銀の短刀の破片(No.020)を摘み、中和溶液の水槽に浸した。


ジュウウウッ——!


刀身に付着していた二筋の血が溶液の中でぶつかり合い、血の色の煙を立ちのぼらせた。

まさにその瞬間だった。


ポン——!


作業台の隅のガラス棚に置かれていた四本の試薬瓶のうち、[14層:沈黙の大聖堂]と記されたガラス瓶のコルクの栓が、天井に向かって勢いよく跳ね上がった。

開いた瓶の口から噴き出した一筋の真紅の霧が、重力に逆らって作業台の天井へと垂直に立ちのぼり、その隣に置かれた[47層]と[62層]の試薬瓶のガラス壁まで並んで共鳴させながら、細く震え始めた。


作業台の上で眠っていた銀色の毛玉、ハルがぱっと目を開き、天井に向かって低く唸った。

俺はゆっくりと左手の黒い木綿の布の結び目を撫でながら、天井に逆さに溜まった赤い霧を見上げた。


「……三日ぶりの二度目の食事を終えたらしいな」


(『塔にただ一軒の古道具屋』第5話 了)

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※第一部・第二部(第1話〜第44話)完全収録オムニバス&機密設定資料集:

・BOOTH(公式書庫): https://spire-archive.booth.pm/items/9073638

・note: https://note.com/seodoyeon_spire/n/n17ce12ece663

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