第22話 二十年間閉ざされていた修繕行嚢(No.035)
十七日目の夕方、1層の路地に薄闇が降りる頃、ペク・ユラとシオンが並んで店の扉を開けて入ってきた。
シオンは九つ目の結び目まで真っ直ぐに張り直された黒い傘(No.017)を握っており、ペク・ユラは『白銀の黎明』ギルドの印章が押された正規登攀路の通行証を二枚、作業台の上に置いた。
「明後日の夜明け、ギルド本隊が1層の中央昇降場から20層へ登ります」
ペク・ユラが整った声で言った。雨に少し濡れた彼女の銀灰色のギルド制服の肩には、この十日間、外郭の封鎖線と連絡所を行き来して本隊の移動経路を自ら調整してきた指揮官の、揺るぎない気配が宿っていた。
「店主さんが前回、副隊長の白銀の認識票(No.027)を復元してくださって受け取られた『20層修繕露店許可札』を、ギルド商団名簿に正式に登録しておきました。明後日の夜明け、私どものギルドの馬車で、シオン君と一緒に20層まで直接登っていただけますよ」
シオンが俺の作業台の脇へ歩み寄り、目を輝かせて頷いた。数日前まで雨上がりの路地でお使いに走り回っていた少年が、今ではすっかり一人前の道案内の助手にでもなったかのように、肩をぴんと張っていた。
「店主さん、上の階の道案内も、修繕道具の鞄を持つのも、僕に任せてください!」
シオンは手に握っていた黒い傘(No.017)の持ち手を誇らしげに叩きながら言った。父親が空っぽの雨の中へ歩いていく後ろ姿だけが残された傘だったが、九つ目の結び目まで強く張りを取り戻した傘の骨は、少年の手の中で誰よりも頼もしい杖の役を果たしていた。
「店主さんが直してくださったこの傘(No.017)さえあれば、20層へ行く道中でどれだけ雨が降っても平気です。それにユラ姉さんが、ギルドの馬車の隣の席まで空けておいてくれたそうです」
ペク・ユラも淡い笑みを浮かべて頷いた。副隊長カン・テゴムの認識票(No.027)を懐の内側に収めてからというもの、彼女の眼差しには揺らぎのない落ち着きが宿っていた。
俺は小さく笑って引き出しの中から、六角形の真鍮の縁に翼の盾の紋様が浮き彫りにされた20層修繕露店許可札を取り出し、通行証の隣に並べて置いた。そして作業室の奥の戸棚の一番深い隅から、重い灰色の防水布にくるまれ、二十年間ただの一度も日の目を見なかった古い革の櫃を一つ、引きずり出した。
修繕台帳第一号の三十五行目に『No.035 移動式修繕背嚢』と書き入れた。
防水布の古い結び目を解くと、長いこと外の空気に触れていなかった蜜蝋と乾いた革の匂いがほのかに立ちのぼった。防水布を取り払うと、折りたたみ式の真鍮の関節フレームと分厚い黒牛革で組まれた『移動式多段修繕行嚢』が姿を現した。前の持ち主が若い頃、塔の中層と高層の野営地を巡りながら自ら設計して誂えた、世界に二つとない移動工房だった。二十年前、99層から降りてきた俺に、この工房の前の持ち主がどこかへ旅立つ前夜、鍵とともに手渡して「いつかお前がまた上の階へ登る日が来たら、その時に直して背負っていけ」と言った品だった。
歳月の重みに押し潰され、行嚢の右側の真鍮の蝶番二つは内側へねじ曲がっており、背板側に隠された三つ目の秘密の区画――50層以上の高層の深淵の遺物を扱う時にだけ開ける『高層隠蔽区画』――の封印紐は、半ば朽ちて緩んでいた。
黒い木綿の布を巻いた左手で行嚢の真鍮の蝶番に触れると、二十年前、この工房の前の持ち主が行嚢を背負って塔の高い階段を上り下りしていた重々しい足取りと火薬の匂いが、掌を伝って流れ込んできた。
問題は、あの半ば緩んだ三つ目の『高層隠蔽区画』だった。
今、俺の左手の烙印が手首の上へ指一節分も広がっている状態で、あの高層隠蔽区画の回路をそのまま生かしておけば、20層の城門の検問台を通る時に行嚢の内側から高層の波長が漏れ出し、ペク・ユラとシオンまで監察団の標的にしてしまう恐れがあった。逆に、あの隠蔽区画を鑞付けで永久に封印してしまえば、行嚢全体の重量が減り、20層以下の遺物の修繕に必要な精密工具の区画八つは完全に甦るはずだった。
二十年という歳月、戸棚の隅で眠り続けていたその革の行嚢は、まるで主が再び旅立つ日を静かに待ち続けてきた老いた軍馬のようだった。黒牛革の表面に積もった埃を乾いた絨毯布で拭い取ると、角ごとに精巧に噛ませた真鍮の補強板と、肩紐の頑丈な二重バックルが、本来の重厚な艶を取り戻した。
今の俺に必要なのは、50層の彼方の巨大な深淵の遺物を閉じ込めておく重い秘密の金庫ではなかった。20層の城門の下で、俺への掛け売りの請求書を懐に忍ばせて登ってきたであろう審問官の剣の柄を手直しし、その階段を行き来する登攀者たちの壊れた器物をその場で直してやれる、軽くて頑丈な野戦作業台だった。
迷いは長くなかった。
「シオン君、炉の脇から銀鑞ごてと松脂の壺を取ってくれるか?」
「はい、店主さん!」
ペク・ユラが炉の脇で熱せられた銀鑞ごてを手に取りながら、俺の左手首に巻かれた黒い木綿の布をしばらく見つめた。
「店主さん、その行嚢の内側の隠蔽区画を封印してしまうと、店主さんがお持ちになれる装備もその分減ってしまうのではありませんか? 私どものギルドの馬車は特別許可を受けた車両ですから、わざわざ封印なさらなくても検問台は通れるはずですが」
「ギルドのご厚意はありがたいのですが、20層の城門より上には、白銀の黎明の名だけでは覆い隠せない目がいくつもあります。余計な火種を抱えて登って、ギルドとシオン君の足取りを重くする必要はありませんから」
俺の言葉にペク・ユラはそれ以上尋ねず、頭を下げて銀鑞ごてと松脂の壺を作業台の上に置いた。
俺は真鍮のペンチと小型の槌を右手に握り、まず革の行嚢の外側のねじれた真鍮の関節フレーム二つを、精密に叩いて水平に合わせた。
カン、カカン、カン。
槌の先が真鍮の関節の中心ピンを叩くたびに、二十年間固まっていた金属の隙間から古い埃が軽く振るい落とされた。俺は関節の節ごとに精製した椿油を一滴ずつ垂らして潤滑の膜を張り、革と真鍮のフレームが触れ合う角には薄い羊革のパッドを新たに当てて、摩擦による摩耗を防いだ。
傍らで松脂の壺を持って立っていたシオンが、真鍮の関節が精巧に噛み合う構造を見て感嘆の声を上げた。
「わあ、鞄一つに棚が三つも畳み込まれているのに、厚さが僕の手のひらくらいしかないんですね! 店主さんの使う道具がどうしてあんなに端正なのか、やっと分かりました」
「道具が揺らげば、直す品の記憶も一緒に揺らぐからな。特に道の上で修繕の場を広げる時は、作業台の代わりになるこの関節一つが、店の花崗岩の石板に取って代わらなきゃならん」
油を染み込ませた革紐で、擦り切れた継ぎ目を九目ずつ細かく縫い直すと、きしんでいた3段折りたたみ式の道具棚が音もなく滑らかに開いては畳まれた。続いて俺は、シオンが渡してくれた熱した銀鑞ごてを受け取り、行嚢の背板の内側にある三つ目の高層隠蔽区画の蝶番の隙間に、銀鑞を奥深くまで流し込んだ。
ジュウウウッ――!
白い煙とともに銀鑞が固まり、前の持ち主が残していった高層の隠蔽区画が永久に閉ざされた。その中から漏れ出ていたひんやりとした高層の気配が完全に遮断されるのと同時に、行嚢の背板の中心軸から澄んだゼンマイの音が響き、前面の八つの精密工具の区画が一斉に錠を解かれた。
俺は作業台の上に整えておいた細工鑿、調律針、水晶の彫刻刀、予備の拡大眼鏡、そしてツケ帳を、多段行嚢の各区画へ寸分の揺らぎもなく詰め込んでいった。
革の固定紐を引いて道具を縛ると、歩を進めても金物同士がぶつかる音がひとつも立たないよう、内側の羊毛の緩衝材が道具を柔らかく包み込んだ。シオンは目を丸くして、行嚢の3段の棚が畳まれては開く様子を珍しそうに覗き込み、ハルは自分の居場所でも探すように、開いた行嚢の下段の革の小袋の近くをうろついて鼻をくんくんと鳴らしていた。
「ずいぶん軽そうですね、店主さん」
ペク・ユラが行嚢のなめらかになった真鍮の縁を見て感嘆すると、俺は行嚢の表面を拭き取った革油の滓と削れ落ちた真鍮の粉を小瓶に掃き入れながら答えた。
「今から行く20層に本当に必要な区画だけを残して、まだ開ける時ではない重い区画は閉じておきましたから」
俺は肩紐を調整し、復元された行嚢を一度背に担いでみた。二十年ぶりに再び俺の背板に密着する黒牛革の感触は、驚くほど馴染み深かった。シオンが隣で手を叩いて喜び、ペク・ユラは明後日の夜明け五時に広場南の昇降場の前でお会いしましょうと言って、丁重に会釈をした。
二人が帰った後も、俺はしばらくの間、黒牛革の行嚢の真鍮のバックルを指先でそっと撫でていた。予約番号として空けておいた三十二番目の看板灯の本体を除き、灯りを再び灯すのに必要な十九種の先行修繕の副産物のうち、これで十八番目の欠片までがガラス瓶の中に集まっていた。
俺は修繕台帳第一号の三十五行目に『No.035 二十年間閉ざされていた移動式修繕背嚢。高層隠蔽区画を永久封印して重量と波長を減らし、20層行路用に復元完了』と書き入れた。作業台の片隅に整えた行嚢を立てかけてみると、二十年間一度も離れたことのなかったこの1層の作業室を、しばしの間空ける時が本当に目前に迫っているのだという実感が湧いてきた。俺は棚の上で今も沈黙のうちに留まっている14層の試薬瓶を一度見上げた。あの瓶の主が沈黙の回廊を突き破って20層の城門に辿り着く頃には、俺もこの行嚢を背負ってその城門の下に着いているはずだった。あとは、店を空ける前に最後に敷居を閉ざす錠が一つ残るだけだった。
(『塔にただ一軒の古道具屋』第22話 了)
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