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第17話 主の痛みを代わりに病む肩当て (No.029)

十三日目の朝、第1層の路地の湿った水霧が店のガラス窓の下段をぼんやりと濡らしていた。俺は作業台の上の花崗岩の石板を乾いた布で拭きながら、調律針を大きさ順に並べた。隅の研磨パッドの上に座っていたハルが耳をぴくりと動かし、出入口の方へ首を向けた。


チリン、と扉の上の真鍮の鐘が重く鳴った。


扉を押して入ってきたのは、水気を含んだ旅行用の外套を羽織った若い男だった。冷たい風の中を長く歩いてきたのか指の関節が赤く凍えており、両腕には粗い麻袋に包んだ重たい品物を抱えていた。


「店主殿、上層の討伐隊から降りてきた古鉄の防具も診てもらえますか?」


「作業台の上に下ろして見せてください」


男が慎重に歩み寄り、花崗岩の石板の上に麻袋を乗せた。麻袋の結び目を解いて布をめくると、鉄錆の匂いとともに片方の角が深く抉れた重装甲の肩防具が一つ姿を現した。二十九番目の修繕依頼品である、主の痛みを代わりに病んで錆びついた肩当て、No.029だった。


表面の分厚い鋼鉄板は巨大な衝撃に押し潰されて歪んでいたが、男が手を触れられずにためらっている理由はその内側にあった。肩当てを裏返すと、内側の革当てと鋼鉄の継ぎ目の縫い目ごとに、真っ赤な塩の結晶が棘のようにびっしりと芽吹いていた。


男が凍えた手を背後に隠しながら唾を呑み込んだ。


「私の兄が上層の峡谷守備隊で盾兵として服務していた時に着けていた左の肩当てです。峡谷通路が崩れた日、新入隊員たちを先に後ろへ下がらせて独り残り、後から収容されて降りてきました」


男の視線が裏地に突き刺さった赤い塩の結晶に留まった。


「形見といえばこの肩当て一つだけなのですが、内側にこの通り赤い塩の塊が食い込んでいて誰も手を触れられずにいます。お湯で洗い流しても目を離せば血水のような錆とともに塩の棘がまた生えてきますし、素手で裏地に触れただけでも肩の骨が砕けるように痛むため、母が胸に抱いてみることさえできません。あの塩の結晶をどうにか抜いてもらえませんでしょうか?」


「先に内側の回路を拝見します」


俺は真鍮の拡大鏡眼鏡をかけ直し、石板の上へ頭を下げた。右手で象牙の棒を持ち、裏地の端の革をそっとめくってみた。


肩当ての内側の鉄板には、着用者が受ける衝撃と苦痛を金属側へ引き寄せて軽減する保護回路が細く陰刻されていた。主が耐えきれぬ圧力を持ちこたえる間、主の体が味わうはずだった痛みと血汗をこの肩当てが代わりに吸い込んで病んだようだった。散りきれなかったその苦痛の波長が、縫い目ごとに赤い塩の結晶となって固まってしまった状態だった。


「一歩後ろへ下がっていてください」


俺は男を下がらせた後、黒い木綿布で包んだ左手を持ち上げ、肩当ての裏地の裂けた革の縫い目と赤い塩の結晶の上にそっと乗せた。


木綿布の下の火傷の傷跡と首席調律師の烙印が重く疼いた。指先に触れた粗い塩のきめを伝って、上層峡谷のむせ返るような石粉の匂いと轟音が視界の中へと押し寄せてきた。


逆さまに噴き上がる雨脚と崩れ落ちる岩壁の埃に覆われた狭い峡谷通路が見えた。背後では若い新入隊員たちの荒い息遣いと軍靴の音が通路の外に向かって遠ざかっていた。前方の暗闇から降り注いだ重厚な打撃が、半ば砕けた盾を越えて盾兵の左肩の肩当てを正面から押し潰した。肩の骨が陥没する衝撃に肩当て内側の回路が真っ赤に焼け、主の激痛を吸い込み、滲み出た血水と汗がその場で赤い塩へと固まっていった。盾兵は通路の岩壁に左肩を深く食い込ませたまま半寸も退かなかった。背後の安全鉄扉が閉まる鈍い音を確かめた彼が、暗闇の中で長く熱い最後の呼気を吐き出した瞬間、視界が閉じた。


短い記憶の破片が散った。俺は肩当ての裏地から左手を離し、荒い息を整えた。黒い木綿布の下に、肩が押し潰されるような痛みの余韻が残っていた。


「新入隊員たちが通路の外へ抜け出し、鉄扉が閉まる音を聞くまで、左肩で岩壁の通路を塞いで立ち、一歩も退かれませんでしたよ。最後の息を吐き出す瞬間まで後ろを守り抜かれました」


俺の言葉を聞いた男が両手で顔を覆い、肩を震わせた。しばらくして濡れた目元を拭った彼が、震える声で尋ねた。


「店主殿、あの赤い塩を取り除いて母の懐へ返してやる方法はありますか?」


俺は右手で裏地の赤い塩の結晶と、その下の陰刻回路を指さした。


「方法は二つあります。火炉の火で肩当てを熱するか中和試薬を注いで内側の回路を丸ごと焼き切ってしまえば、この赤い塩の結晶は一気に溶けて消えます。ただし、そのように完全に焼いて封合してしまえば、この肩当てが抱いているお兄様の最後の息遣いと記憶の温もりまで跡形もなく消え去り、冷たい古鉄だけが残ることになります」


男の顔がこわばった。


「記憶まで消えてしまうのなら……もう一つの方法とは何ですか?」


「回路には火を当てず、調律針で塩の結晶の根を一つずつ剥がしながら、その中に閉じ込められている痛みを私の手で直接受け止めて抜き出すことです。そうすれば刺すような痛みと赤い錆は消え、お兄様が残された最後の呼吸の温もりは裏地にそのまま残ります」


男が俺の左手の黒い木綿布と肩当てを交互に見つめた。


「それでは店主殿が、その痛みをすべて味わわねばならないのではありませんか」


「私の仕事です。修繕費は銀貨でいただきますのでご心配には及びません。いかがなさいますか?」


男はしばし唇を噛み締めていたが、やがて深く腰を折った。


「兄が最後まで耐え抜いた痕跡が消えないようにしてください。お願いいたします」


俺は頷き、作業台の片側の真鍮の固定台に肩当てを裏返してしっかりと噛ませた。揺れないようにネジを締めた後、黒い木綿布を巻いた左の掌を肩当ての裏地の中央回路の上に密着させた。そして素手の右手で細い白銀の調律針と分離用のやっとこを手に取った。


右手の調律針の先で、革の縫い目の端に食い込んだ小さな赤い塩の結晶の根元を突いて持ち上げた。


ギリッ、という摩擦音とともに結晶が一つ回路から剥がれ落ちた。その瞬間、結晶の根に絡みついていた鋭い痛みが電流のように回路の幹を伝って俺の左の掌の中へと雪崩れ込んできた。木綿布の下の火傷の傷跡と烙印が熱く焼け、左肩まで重苦しい衝撃が突き上げた。抜き出された赤い結晶は痛みの核を失うやいなや、石板の上で白っぽい砂の粉へと砕け散った。


俺が呼吸を整え、次の塩の結晶の根に調律針を当てようとした矢先だった。


正午を告げる店の壁面の時計の針が十二時に重なるのと同時に、店の裏手の深い落下口の垂直通路を伝って、上層から重く巨大な金属の波動が降りてきた。


ゴオオン——。


研磨パッドの上に伏せていたハルがぱっと顔を上げて耳を立てた。垂直落下口の分厚い石壁を震わせて降りてくる、第14層大聖堂の鋳鉄の鐘の音だった。


俺は右手の調律針を止めたまま、落下口側の通風口の向こうから伝わってくる低い振動を静かに数えた。一度、二度、三度。逆さまに噴き上がる雨脚を貫いて降りてきた鐘の音は、止まることなく十二回をきっちり満たして鳴り響いた後、長い余韻を残して収まった。


俺は通風口の方を見つめながら低く呟いた。


「上で誰かの裁判が終わったな」


ハルが一度鼻を鳴らすと、再び前足の上に顎を乗せた。俺は揺れる空気を後にし、再び固定台に噛ませた肩当ての裏地へと視線を集めた。


午後いっぱい、作業室の中には調律針が塩の結晶の根を掻き出す音だけが低く続いた。右手が結晶を一つ剥がすたびに、盾兵が峡谷通路で独り受け止めねばならなかった打撃感が俺の左手の烙印へと激しく流れ込んだ。日が傾きランプに火を灯す頃には、裏地の端の小さな結晶のほとんどが白い砂に変わって石板の上にうず高く積もった。


いま残っているのは、肩の関節が直接触れる裏地のど真ん中、最も深く抉れた鋼鉄の継ぎ目の隙間に食い込んでいる親指ほどの暗紅色の塩の結晶ただ一つだけだった。


俺は額に浮かんだ冷や汗を右手の袖で拭った。中心回路に当てた左手の黒い木綿布が汗と熱気でじっとりと濡れており、左腕全体が鉛の塊を吊るしたように重く震えた。


隣で息を殺して見守っていた男が、青ざめた俺の顔色を見て控えめに口を開いた。


「店主殿、腕がずいぶん震えておられますが、少し休まれてからになさってはいかがですか?」


「今手を離せば、抜け出しかけていた痛みが中央の結晶へ再び集まり、裏地の回路が弾けてしまいます。この一塊さえ抜き切れば終わります」


俺は右手の調律針を置き、先端が鉤のように曲がった鋼鉄の調律やっとこを持ち直した。やっとこの先を暗紅色の中心結晶の根元に深く押し込んで噛み合わせた。


俺は奥歯を固く噛み締め、左の掌を裏地の中心回路にいっそう深く押し当てた。そして右手のやっとこに力を込め、暗紅色の塩の結晶の根を一気にねじり引き抜いた。


バキッ!


結晶の根が鉄板の溝から引き抜かれた瞬間、岩壁の通路全体が肩の上へ崩れ落ちてくるような激痛が左手の中へと一斉に押し寄せた。膝が石板の下へ折れそうになるのを、つま先に力を込めて堪えた。


黒い木綿布の下で肉が焼け焦げるような熱気が立ち昇った。痛みの波長を左手の烙印の中へ残らず引き寄せて閉じ込めると、左手の甲と手首の関節までに留まっていた暗紅色の烙印が炎のように燃え上がり、手首の上へと一節分さらに長く広がっていった。


燃え盛っていた熱気が手首の上の一節の位置で徐々に収まると、右手のやっとこの先に挟まれていた暗紅色の塩の結晶が力なく砕け、細かい灰色の粉となって散った。


同時に、肩当ての裏地から血水のように滲み出ていた赤い錆が引いた。棘を立てていた縫い目が元の位置に戻り、肩当ての内側からは刃のような痛みの代わりに、盾兵が最後に吐き出した熱く重厚な息遣いの温もりだけが静かに立ち昇った。


俺は荒い息を吐きながら、左手を肩当てからゆっくりと離した。固定台のネジを緩め、右手で小さな彫刻刀を手に取り、肩当ての内側の鉄板の角に最後の輪の端を内側へ巻き込んだ小さく丸い結び目の標識を刻み入れた。


「終わりました。もう直接触ってみてください」


男が慎重に歩み寄り、震える指先を肩当ての裏地の革の上に乗せた。刺すような痛みが全く感じられないと分かると、男の目が大きく揺れた。彼は両手で肩当てを持ち上げ、自身の胸元に深く抱き締めた。


「温かいです……棘もすべて消えて、兄の体温のように温かいばかりです」


感情を落ち着かせた彼は、麻袋で肩当てを大切に包み直すと、懐から重たい銀貨の袋を取り出して花崗岩の石板の上に置いた。


「ありがとうございます、店主殿。これでようやく母も兄を抱き締めることができます」


男は何度も頭を下げて礼を述べた後、夜霧が濃くなった第1層の路地へと出ていった。扉の上の真鍮の鐘の音が収まると、作業室の中には再び静寂が降りた。


俺は箒で石板の上の塩の粉を掃き落とし、修繕台帳第一号を開いた。二十九行目にNo.029錆びた肩当ての品名と銀貨の受領を短く記入した後、帳簿を閉じた。


真夜中を過ぎてからもだいぶ経った、まだ夜明け前の薄暗い暁の頃だった。俺は作業室の隅の水盥の前へ歩み寄り、左手に巻いていた黒い木綿布をゆっくりと解いた。


火傷の傷跡の上に位置する暗紅色の首席調律師の烙印が、修繕を始める前よりも手首の上へ一節分も長く広がっていた。俺は冷水で手拭いを濡らしてまだ微熱の残る左手首を拭き、新しい木綿布を取り出して広がった箇所まで緻密に巻き直した。


結び目を整えて顔を上げた俺の視線が、水盥の上の壁面に掛かった古い真鍮の鏡で止まった。


ランプの火が映る鏡の中、額の脇へ垂れ落ちた黒い髪の毛の間に、見慣れぬ白い色が一つ混じっていた。


俺は真鍮の拡大鏡眼鏡を外して水盥の横に置き、鏡の前へ半歩近づいた。先ほど跳ねた塩の粉や埃ではなかった。毛根から毛先まで白く色褪せた白髪が一本、黒髪の間で鮮明に光っていた。


俺は素手の右手の人差し指の先で、その白髪一本にそっと触れてみた。冷ややかに見知らぬ感触が指先に引っかかった。


木綿布の下、左手首の上へ一節分さらに広がった暗紅色の烙印の微熱と、右手の人差し指の先に引っかかった白髪一本の冷ややかな感触が、最も高い場所を去って以来止まっていた俺の時計のぜんまいを静かに揺らしていた。夜明けの作業室の静寂の中で、俺は鏡の中の白髪を見つめながら低く呟いた。


「二十年ぶりに、時間が私を再び数え始めたか」


窓の外の第1層の路地にはまだ夜明けの闇が深く垂れ込めており、足元へ歩み寄ってきたハルが俺の靴先の隣で静かに身を丸めて横たわった。


(『塔の中の唯一の中古商店』第17話 終わり)

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・BOOTH(公式書庫): https://spire-archive.booth.pm/items/9073638

・note: https://note.com/seodoyeon_spire/n/n17ce12ece663

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