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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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第99話 開花


 楸、仁、姫奈、淳子が交代でサンドバッグを打つ中、美玲は一人、両手を合わせて気を感じる練習をしていた。


 その姿に気づいた楸が声をかける。


「神崎もサンドバッグ打ってみないか?」


「いえ、私はそっち向きじゃないので……」


 美玲は苦笑いを浮かべながら首を横に振る。


「神崎さんもそのうち打ってもらう事になるわよ?」


「えー……」


 淳子の言葉に、美玲は露骨に困った顔をした。


「師匠のそばでずっと見てきた先輩なら、きっとできますよ!」


「お姉様の親友ですもの。きっと非凡な物が隠されているはずですわ」


「買いかぶりだよー」


 照れ笑いを浮かべる美玲を、雛はじっと見つめていた。


「美玲、推手をしよう」


「推手?」


 雛は美玲の前に立ち、右手の甲を外側へ向けた手刀を差し出す。


「美玲も同じようにして、私の右手の甲に右手の甲を合わせて」


 美玲も真似をして右手を差し出し、雛の手の甲へそっと重ねた。


「こう?」


「うん。それでお互いに押し引きするの。相手が押したら引いて、自分が押せば相手が引くの繰り返し」


「やってみる」


 雛が押す。


 それに反応して引く美玲。


 今度は美玲が押す。


 雛は引く。


「力の流れを感じ取る練習」


「これなら私にもできるね」


 二人はゆっくりと押し引きを繰り返す。


 その最中。


 美玲が押した瞬間、不意に身体が前へ流れた。


「わわっ!」


 慌てて踏みとどまり、体勢を立て直す。


 再び雛の押しを受ける。


 もう一度押し返した瞬間。


 今度は身体が右へ流れた。


「なんで?」


「どの方向に力が向いてるかを判断して、誘導してるだけ」


 その様子を見ていた楸と淳子も向かい合う。


「こうか?」


「甘いわね」


 次の瞬間。


 楸の身体が大きく泳ぐ。


「おっととっ」


「一応、部長なんだから、これくらいは出来るわよ」


 一方では、仁と姫奈も向かい合っていた。


「姫奈、やるな」


「仁より得意な物ができそうですわ!」


 四人が推手に夢中になっていた、その時だった。


 ドン。


 小さな音と共に、雛が尻もちをついた。


 全員の動きが止まる。


「……え?」


 楸が目を丸くする。


 淳子も仁も姫奈も、信じられないものを見るように雛を見つめた。


「あれ?」


 美玲自身も何が起きたのか分からず目を瞬かせる。


「やられた」


 雛は何事もなかったように立ち上がった。


「雛、手加減してくれたんでしょ?」


「思わぬ才能」


「マジか!?」


 楸はすぐに美玲の前へ立つ。


「神崎、俺とやろうぜ」


 二人が手を合わせる。


 押し引きを始めた次の瞬間。


 楸の身体が崩れた。


「うわっ!」


 踏みとどまれず、よろける。


「先輩、俺とも!」


 続いて仁。


 しかし結果は同じだった。


「うわっ!」


 仁もあっさりと体勢を崩される。


「私ともお願いしますわ」


 姫奈が挑む。


 仁より長く粘る。


 それでも最後は身体を流され、一歩踏み出した。


「私の番ね!」


 最後は淳子。


 経験の差で最も長く持ち堪える。


 だが。


 流れた力を完全には読み切れず、最後は体勢を崩した。


「えっ、ええっ!?」


 美玲自身が一番驚いていた。


 楸は真剣な表情で尋ねる。


「神崎、力の流れが見えるのか?」


「ううん、違うよね? 美玲」


 雛が静かに首を横へ振る。


「両手の間の、気?を感じる練習をしてたからか、もやっとした物が来る方向が分かって、それに合わせて手を動かしただけなんだけど……」


「気の流れを感じ取ったのか」


 楸が息を呑む。


「気を感じる練習が、それほど重要ですのね」


 姫奈も感心したように呟く。


「そんな短時間で身につく物じゃない」


「じゃあ?」


 仁が雛を見る。


 淳子が静かに答えた。


「神崎さんに気を感じ取る才能があったってことね!」


 雛は小さく頷く。


「やっぱり私の親友」


「えへへっ」


 照れ笑いを浮かべる美玲。


「神崎先輩にも負けてられませんわ!」


 姫奈は闘志を燃やし、美玲は思わず笑った。


「ふふっ」


 静かに拳を握りしめる。


 思わぬ才能の開花に戸惑いつつも、気持ちが高揚する美玲だった。


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