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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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第96話 遣残


 華薗学園三年生、季和実淳子は悩んでいた。


 大陸武術研究部部長。


 部長と言っても、たった一人の研究部である。


 三年生が卒業し、自分が三年生になることで、部員は自分一人になってしまった。


「去年も今年も、体験入部は一人もなし……一番痛かったのは、去年の体験入部に哀沢雛が来てくれなかった事。来てくれてれば、後々部の知名度は上がってたはずなのに!」


 深いため息を吐く淳子。


「毎年の散打発表会で好成績を収めてるとはいえ、部の活動は座学が中心……新入生の興味は惹きにくいわよね」


「でも、このままじゃ私の代で部が終わってしまう。それだけは阻止しないと!」


 教室の片隅で思い悩んでいた淳子に、クラスメイトが声をかける。


「何悩んでるのよ淳子!」


「部の事でね……」


「あー、新入部員入らなかったもんねー」


「それでね、二年の哀沢雛さんをスカウトしてみようかと思ってるんだけど……」


 ギョッとするクラスメイト。


「本気で言ってる!?」


「色んな噂は聞いてるけど、全部本当だとしたら、あの子ほど適任はいないのよ」


「ま、まあ、健闘を祈るわ」


「まずは会ってみないとよね!」


 淳子は勢いよく立ち上がった。



 昼休みの二年A組。


「ここね……」


 淳子は教室の扉を開けた。


「哀沢雛さん居る?」


 近くにいた女子生徒が答える。


「哀沢さんなら屋上だと思いますよ?」


「屋上ね。ありがとう!」


 礼を言うと、淳子は屋上へ向かった。



 屋上では、いつもの五人が弁当を広げていた。


「哀沢、なんで高校生の弁当にエスカルゴが入ってんだ!?」


 楸が目を丸くする。


「そんな今更なこと言います?」


 美玲が苦笑する。


「一つ食べる?」


 雛が尋ねる。


「いいのか?」


「卵焼きと交換」


「OK!」


 楸は卵焼きを差し出し、雛からエスカルゴを受け取る。


「私もお姉様とおかず交換したいですわ……」


 姫奈が残念そうに呟く。


「それは全部食っちまう前に言うんだな」


 仁が笑う。


 そんな談笑の最中。


 階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。


 淳子だった。


 雛を見つける。


「哀沢雛さんね?」


「そうです」


「私は季和実淳子。大陸武術研究部の部長をしているの」


「あっ!」


 美玲が思い出したように声を上げる。


「去年、雛が体験入部に行かなかった部よね?」


「散打の体験がなかったから、行かなかった」


「やっぱりかー……」


 淳子は額を押さえた。


「あんまり活動してるのを聞かないけどな」


 楸が言う。


「楸君! うちは毎年散打発表会で好成績を収めてるのよ!」


「たまに部室の前を通るが、練習してる声を聞かないぞ?」


「そうなんだ」


 雛が呟く。


「うちは座学がメインで、実践稽古は週一なのよ」


「それで、その部長さんが来たということは、雛の勧誘ですか?」


 美玲が尋ねる。


「あなた察しがいいわね。そう、哀沢雛さん、貴女に大陸武術研究部、次期部長をお願いしたいの!」


「いいよ」


「すぐにとは言わない! 一度見学だけでも…………え? いいの!?」


 淳子は目を丸くする。


「また、このパターン……」


 美玲が苦笑する。


「師匠、決断早すぎです」


 仁も苦笑した。


「お姉様が部長になられるのなら、私も部員になりますわ!」


 姫奈が笑顔で言う。


「俺も入ってもいいぜ」


 楸が続く。


「もちろん俺もです」


 仁も頷く。


「座学中心なら、興味あるかも」


 美玲も微笑んだ。


 驚きと喜びが入り交じる淳子。


「部員が一気に五人も……じゃあ、放課後に部室の方に来てね」


「うん」


 階段へ歩きながら振り返る淳子。


「待ってるからねー!」



 放課後。


 大陸武術研究部部室。


 部室には教壇と机と椅子が並び、教室と同じ造りになっている。


 壁に置かれた本棚には、大陸武術に関する蔵書がびっしりと並んでいた。


「これはすげぇな」


 楸が思わず見入る。


「座学中心っていうのも、わかる気がします」


 美玲も本棚を見渡した。


「これを読めるだけでも、入る価値はあるな」


 仁が感心する。


「見識が広がりそうですわね」


 姫奈も目を輝かせた。


 満足げに頷く淳子。


「そうでしょうそうでしょう! うちの部自慢の蔵書よ。歴代の先輩が寄贈してくれた物よ」


 雛だけは席に着かず、蔵書のタイトルを隅々まで見ている。


「この蔵書の全てを理解し、解析できた部員は、私を含めてまだ一人もいないのよ。だから、私はこの部を潰さずに残していかなきゃいけない使命があるの!」


「うん」


 頷く雛。


「哀沢さん、どうした?」


 淳子が不思議そうに尋ねる。


「全部知ってる」


「え……?」


「全部読んだことある」


「お姉様!?」


 姫奈が驚く。


「師匠?」


 仁も目を見開く。


「俺は驚かんぞ」


 楸は腕を組む。


「雛ですもんね」


 美玲は苦笑した。


 放心状態から立ち直った淳子が口を開く。


「ぜ、全部読んだことあるとしても、内容は理解できてるの?」


「うん」


「季和実、哀沢にその質問は愚問だぞ」


 楸が肩をすくめる。


「私がこれから一年かけて後輩に伝えていかなきゃって思ってた、やり残しが、一日で終わった!?」


 頭を抱える淳子。


「あとは任せて」


「いや、卒業までは居るからね!?」


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