第95話 望郷
翌日。
華薗学園の全体朝礼。
壇上に立った校長が、神妙な面持ちで口を開いた。
「先日赴任された、ヒース・ハワード先生は、ご実家の事情で本国に帰られることになりました。戻ってこられるかは、未定との事です……」
とても残念そうな表情を浮かべる校長。
(ハワード財団からの寄付金は振り込まれていないし、まあ、ニュース通りなら無理でしょうけど……)
壇上ではそんな事を考えていた。
「校長先生、本当に残念そうね」
美玲が小さく呟く。
「スパイの仲間だった……?」
「どうしても疑いは晴れないのね!?」
思わずツッコミを入れる美玲。
だが。
昨夜のニュースを思い出し、本当に雛の勘は当たっていたのではないかと思い始めていた。
少し離れた場所では、姫奈と仁も朝礼を聞いていた。
「やっぱり、お姉様の言った通りだったのかしら?」
「ハワード財団乗っ取りと無関係じゃなさそうだな。当主様から何も聞いてないのか?」
「ハワード財団については、特に何も仰ってませんでしたわ。でも……」
「でも?」
「ウエストガーデン恐るべしとだけ……」
仁は苦笑する。
「うん、もう考えるのはよそう」
各学年、各クラスでも、突然のヒースの帰郷と昨夜のハワード財団のニュースを結び付けて話す生徒達が少なくなかった。
◇
昼休み。
屋上には雛、美玲、楸、姫奈、仁の五人が集まり、それぞれ弁当を広げていた。
「やっぱり、哀沢の言った通りだったって事なのか」
楸が呟く。
「知らない」
雛は短く答えた。
「スパイって言ってたの雛だよね!?」
「ヒース・ハワードは、ハワード財団の回し者だったと見た方がよさそうですわね」
姫奈が静かに言う。
「師匠、紫亜さんから何か聞いてますか?」
仁が尋ねる。
雛は少しだけ考えた。
「ここからは、私の仕事って言ってたかも」
四人は顔を見合わせる。
それ以上は、誰も聞かなかった。
誰からともなく話題を変え、昼休みはいつもの穏やかな空気のまま終わっていった。
◇
夕方。
とあるビルの屋上。
一人の男が、海の向こうをじっと見つめていた。
ヒース・ハワード。
本国へ帰ったはずの男だった。
「どうしてこうなった……」
悔しげに唇を噛み締める。
「実行部隊とは連絡が取れない。本国の父に連絡しても、無能は帰ってくるなと言われた……」
昨夜のニュースが脳裏をよぎる。
「そもそも、帰ったところで僕の家はあるのか……?」
遠い故郷に思いを馳せるも、二度と戻れない現実に、涙を流すヒースだった。




