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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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94/102

第94話 kidnap


 駅前で美玲達と別れた雛は、一人で家路についていた。


 夕暮れの街。


 人通りは徐々に少なくなっていく。


 その後方。


 黒塗りの電気自動車のミニバンが停車していた。


 車内には三人の男。


 全員が黒づくめの服装で顔を隠している。


 運転席の男が、歩く雛を見つめながら小さく呟いた。


「あれが標的の少女だ」


 後部座席の二人が無言で頷く。


「この先に人気のない通りがある。そこで実行するぞ」


 男達は静かに車を走らせた。



 雛が人気のない通りへ入る。


 静かに追いかける電気自動車。


 スライドドアを開けた状態で雛に並び、中から二人の男が雛を捕獲せんと素早く飛び出す。


 完璧なタイミングだった。


 男達が、このタイミングで誘拐に失敗した事は一度もない。


 だが。


 そこに雛の姿はなかった。


「何!?」


「何か用?」


 後ろから聞こえた声に、男達は反射的に振り向く。


 気付いた時には。


 二人の胸。


 心臓の真上へ、雛の拳が静かに添えられていた。


 次の瞬間。


 二人は声もなく膝から崩れ落ちる。


 運転手の男が慌てて車を飛び出した。


「お前、ただの高校生じゃないのか!?」


「ただの高校生だけど?」


「まあ、いい。俺をこの二人と同じだと思……なっ!?」


 言い終わるより早く。


 雛がウエストから取り出した蛇腹剣が、男の身体から顔へ巻き付いていた。


「動くと首が落ちる」


「ま、待ってくれ!」


「依頼者は?」


 冷や汗を流しながら雛を見つめる。


 男の喉が、ごくりと鳴った。


「俺達はキッドナップのプロだ。軽々しく依頼者の名前は出せない……」


「馬鹿なの?…………死ぬの?」


 男は瞬時に理解した。


 目の前の少女は脅しているのではない。


 本当に殺す。


「わ、わかった! 言う、言うから!」


「早く」


「ヒース……ヒース・ハワードだ……」


「やっぱりスパイ……」


「お前を誘拐して、長時間拘束しろとの依頼だ。怪我をさせるなとも言われている」


「他には?」


「計画が終了したら連絡するから、その時にお前を解放するようにと……」


「そう……」


「これで全部話したぞ! 拘束を解いてくれ!」


 雛は無言でスマートフォンを取り出した。


 どこかへ電話を掛ける。


「紫亜さん、誘拐されそうになったんだけど、これは殺してもいいやつ?」


『すぐ参りますので、少々お待ちくださいね』


「わかった」



 三分も経たないうちに、紫亜が現れた。


「お待たせいたしました」


「これ」


 雛は蛇腹剣で拘束した男へ視線を向ける。


 先ほど倒れた二人は、まだ気絶したままだった。


 紫亜は何も言わない。


 蛇腹剣で拘束された男を手際よく気絶させる。


 続いて三人をロープで拘束し、猿轡を噛ませていく。


 流れるような動きだった。


「あとはお任せください。雛様は先にお家へ」


「わかった」


「クッキーと紅茶を用意しておりますので、冷めないうちにお召し上がりください」


「うん」


 帰っていく雛を見送りながら、紫亜はスマートフォンを取り出した。


 どこかへ一本の電話を掛ける。


 それから間もなく。


 紫亜が駆け付けた時よりも速い時間で、一台の黒い乗用車が現れた。


 車から降りた男が、誘拐犯達のミニバンへ乗り込む。


 三人の襲撃者を乗せたミニバン。


 黒い乗用車。


 二台は同時に走り去っていった。


 紫亜は、その様子を無言で見送った。



 哀沢家。


 雛はクッキーを食べながら紅茶を飲み、スマートフォンを眺めていた。


「ハワード財団……」


 その時。


 玄関のドアが開く音がした。


「おかえり」


「ただいま帰りました」


「紫亜さん」


「はい」


「学校に、ヒース・ハワードって新任教師が来た」


 紫亜は静かに頷く。


「なるほど……では、ここからは私の仕事ですね」


「わかった」



 その日の夜。


 ハワード財団の持ち株の六割がウエストガーデングループに買い占められ、事実上ハワード財団という名前はこの世から消える旨のニュースが発表されていた。


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