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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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第92話 接触


 新任教師ヒース・ハワードの華園学園での初授業は、二年A組だった。


 ホームルームが終わり、ヒースが教室へ来るまでの間。


 教室はいつになく賑わっていた。


「モデルみたいだったよね!」


「背も高かったし、すごく格好良かった!」


「英語楽しみー!」


 女子生徒達の声が飛び交う。


 美玲はその様子を見渡しながら苦笑した。


「みんな大騒ぎだね」


 隣の雛は窓の外を眺めたまま、小さく呟く。


「スパイかも……」


「どこの!?」


 美玲は思わず振り向いた。


 その時。


 教室の扉が開く。


 金髪に碧眼。


 朝礼で紹介されたばかりの新任教師が、爽やかな笑顔で教室へ入ってきた。


「はい、静かにー!」


 クラス委員の号令が掛かる。


「起立!」


 全員が立ち上がる。


「礼!」


「よろしくお願いします!」


「着席!」


 椅子を引く音が揃って響いた。


 ヒースは教壇へ立つ。


「もう自己紹介は必要ないと思うけど、ヒース・ハワードです」


 すると、一人の女子生徒が勢いよく手を挙げた。


「先生、彼女はいるんですか?」


 教室中から笑いが起こる。


 ヒースも思わず吹き出した。


「ははは。進学校だと聞いていたけど、そういう質問をする子もいるんだねー」


 一瞬だけ教室が静まり返る。


 ヒースはチョークを手に取った。


「じゃあ、授業の前に……」


 黒板へ英文を書いていく。


 Do you have any questions for me?

(私に何か質問はありますか?)


 チョークを置き、振り返る。


「これに英文で返してくれるかな?」


 生徒達は顔を見合わせる。


 突然の英作文に、教室は静まり返ってしまった。


「じゃあ、出席番号一番、哀沢雛さん。お願いしていいかな?」


「わかりました」


 雛は静かに立ち上がる。


 迷う様子もなく黒板へ向かい、チョークを走らせた。


 Which country's spy are you?

(あなたはどこの国のスパイですか?)


 黒板を見たヒースの笑顔が一瞬だけ固まる。


 すぐに引きつった笑みを浮かべた。


「あは……は、面白いね、哀沢さん」


 美玲は慌てて立ち上がる。


「先生ごめんなさい! 雛はちょっと天然なところがあるので、気にしないでください」


 ヒースは苦笑しながら手を振った。


「いやいや、なかなか面白いジョークだったよ!」


 無言でヒースを観察する雛。


「じゃあ、授業を始めようか!」


 教室は再び笑いに包まれ、その後の授業は穏やかな雰囲気のまま滞りなく終了した。



 昼休み。


 屋上には雛、美玲、楸、姫奈、仁の五人が集まり、それぞれ弁当を広げていた。


 楸が箸を動かしながら尋ねる。


「新任の英語教師、哀沢達のクラスが初授業だったのか」


「聞いてくださいよ、楸先輩!」


 美玲は待ってましたとばかりに身を乗り出す。


「雛ったら、先生が『私に何か質問ありますか?』って英文を書いて、『英文で返して』って言われたんですけど」


「ほう」


「『あなたはどこの国のスパイですか?』って書いたんですよ!」


「ぶっ!」


 楸は思わず吹き出した。


「お姉様!?」


 姫奈が驚きの声を上げる。


「師匠、何か根拠が?」


 仁が真面目な顔で尋ねた。


 雛は少し考え込む。


「…………勘?」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間、一同は声を上げて笑った。


「勘だけでスパイ扱いは、勘弁してほしいなー」


 聞き覚えのある声に、一同が振り向く。


 そこにはヒース・ハワードが立っていた。


「ヒース先生!?」


 美玲が目を丸くする。


 ヒースは困ったように笑う。


「教室で聞いたら、みんな屋上だって教えてくれてね」


 雛は静かに尋ねる。


「何かご用ですか?」


 ヒースは雛へ視線を向けた。


「華園学園創立以来の天才だと校長先生から聞いていたのと、先ほどの授業でのジョークで、君に興味が湧いたんだよ。哀沢さん」


「創立以来の天才?」


 仁が驚いたように美玲を見る。


「雛は入学してから、全部のテストで満点なのよ」


「お姉様、素敵です!」


 姫奈は目を輝かせた。


 ヒースは続ける。


「聞くところによると、運動能力も天才的だそうだけど、部活は?」


「入ってません」


 雛は短く答える。


「雛は運動系の部活は、全部出禁なので……」


 美玲が苦笑すると、


「そういや、そうだったな」


 楸も思い出したように笑った。


「出禁? 何故?」


 ヒースは首を傾げる。


「誰も雛の相手を出来る人がいないんです。男子も含めて」


「オー……」


 ヒースは感心したように頷く。


「僕はボクシングが得意でね。顧問をやる予定だから、スカウトしようと思ったんだが」


 雛は真っ直ぐヒースを見る。


「強い?」


「元学生チャンピオンだよ。なんならスパーリングしてみるかい?」


「いいよ」


「て、そもそも性別が違うし……いいの!?」


 ヒースは思わず目を丸くする。


「なんかデジャブ……」


 美玲は額に手を当てた。


「哀沢、敬語忘れてるぞ」


 楸が苦笑する。


「お姉様、やる気ですわね」


「師匠の闘争本能は見習わないと!」


 姫奈と仁は、どこか嬉しそうだった。


 ヒースは乾いた笑いを浮かべる。


「まあ、スパーリングやるかどうかは別にして、放課後ボクシング部で!」


 そう言い残し、階段を下りていく。


「なんなんだ、あの子は。僕の魅力に何も反応しないなんて……」


 誰にも聞こえないと思いながら、小さく呟く。


「まあ、いいさ。放課後には僕の魅力に気づかせてあげるよ!」


 ボソボソと呟いていたヒースの言葉が、雛だけに聞こえているとは知る由もなかった。


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