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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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第87話 奇縁


 放課後の教室で、雛と美玲が帰り支度をしていると、姫奈と仁がやってくる。


「お姉様!」


「師匠!」


 勢いよく駆け寄ってきた二人を見て、美玲が笑った。


「ほら雛、妹分と弟子が来たわよ」


「弟子?」


 首を傾げる雛。


 仁は真っ直ぐ雛を見つめる。


「師匠と呼ばせてください!」


「教える事ないけど」


「見て学びます」


「いいよ」


「ありがとうございます!」


 仁は深々と頭を下げた。


「さすがお姉様。懐が深いですわ」


 姫奈が誇らしげに胸を張る。


「せっかくだし、みんなで帰ろうか」


 美玲の一言で、一行は校門を出た。


 駅前へ向かって歩きながら、他愛もない話をする。


「晩御飯、何かな」


「紫亜さんの料理美味しいもんねー」


 美玲の言葉に、姫奈が尋ねる。


「お姉様のお母様ですの?」


「お手伝いさん兼保護者」


「すごい人よ!」


 美玲が即答する。


 すると仁が思い出したように口を開いた。


「紫亜……? 師匠、その方、もしかして、紫亜・ウエストガーデンさんですか?」


「仁君、なんで知ってるの?」


「仁?」


 姫奈が不思議そうに振り返る。


 仁は逆に驚いた。


「姫奈、城ヶ崎の当主様から聞いてないのか?」


「紫亜……ウエストガーデン……あああっ!」


「姫奈ちゃんまで!?」


「失礼しました。お父様から聞いていたお名前でしたので……」


「俺は、俺の父親から聞いてたんですけどね」


 姫奈は少しだけ表情を引き締める。


「勝利にしか価値がないと言い切るお父様が、初めて勝てる気がしない相手が現れたと仰ってましたの」


「それが紫亜さんてこと?」


「そうなんだ」


 雛は興味なさそうに頷いた。


「紫亜さんから何も聞いてないの?」


「家に帰ればいつも居るし、普段何してるか聞いたことない」


「雛らしいわ……でも、フェスの時といい、紫亜さん謎が多いわ」


「フェス?」


「雛がステージに立ってた時、シルビー・タイラーに声かけられてたんだけど、旧知の仲って感じだったの」


「誰?」


「師匠、シルビー・タイラー知らないんですか!?」


「世界的な音楽プロデューサーですわ」


「ミハエル・マーキュリーのプロデュースで一躍有名になったんだけど、ミハエル・マーキュリーも知らないわよねー?」


「ちょっと強そうな名前」


「ボーカリストだから! 闘わないよ!?」


「そっか」


 仁は苦笑した。


「こういう所も常識の外側なんですね……」


「お姉様、スケールが違いますわ」


 美玲が感心したように息を吐く。


「それにしても、姫奈ちゃんのお父さんの城ヶ崎グループって、相当な大会社なんでしょ? それが勝てる気がしないって……」


 姫奈が頷いた。


「城ヶ崎グループは常に攻撃的M&Aで大きくなっていったのですわ。なので、ウエストガーデングループにも攻撃的M&Aを仕掛けようとしていたのですけれども……」


 言葉を引き継ぐように仁が続ける。


「俺の父親の話によれば、M&Aを仕掛けようと思っただけで、行動に移す前に、ウエストガーデングループからM&Aを受けて、城ヶ崎グループの三割の会社が吸収されたそうです」


「M&A……」


 美玲が呟く。


 少し考えた雛が口を開いた。


「マーシャルアーツ?」


「お姉様!」


「師匠!?」


「たまにこういう所あるから、気にしないで」


 美玲が苦笑する。


 駅前で姫奈と仁が立ち止まった。


「では、今日はこの辺で。お姉様、失礼いたします」


「失礼します」


「じゃあ雛、また明日ね!」


「バイバイ」



 雛が帰宅すると、いつも通り紫亜が待っていた。


「ただいま」


「おかえりなさいませ」


 リビングへ移動し、向かい合って座る。


 雛は紅茶を一口飲んでから口を開いた。


「紫亜さん」


「はい」


「新入生からお姉様って呼ばれることになった」


「エモいですね」


「うるせぇ」


「ああ……」


「もう一人からは師匠って呼ばせてくれって」


「楸さんに続いて二人目の弟子ですね」


「そっか」


 紫亜は優しく微笑んだ。


「雛様は、そのままで良いと思いますよ」


 雛は静かに頷く。


「後輩二人、城ヶ崎姫奈と影山仁ていうんだけど、二人共紫亜さんのこと知ってた」


「そうですか。城ヶ崎の御令嬢が雛様の妹分なのですね」


「うん」


 紫亜は紅茶を口に運び、静かに呟いた。


「なるほど……そういうことなら、少しは手加減してさしあげてもよろしいかもしれませんね……」


 紫亜の呟きの意味を知ってか知らずか、紅茶を飲みながらスルーした雛であった。


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