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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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第86話 憧憬


 翌日の学園の昼休み、屋上では雛、美玲、楸が昨日の事を話題にしながら弁当を食べていた。


「いやー、昨日は焦ったぜ」


 楸が苦笑する。


「私も!」


 美玲も大きく頷いた。


「ちゃんと手加減した」


 雛はいつもの調子で答える。


「城ヶ崎の負けず嫌いも相当だが、影山の暴走には驚いたからな」


「雛に殺意向けるなんてね……」


 美玲は肩をすくめた。


「かわいい後輩だし」


 あっさり答える雛。


 その時、楸が階段を登ってくる気配に気づく。


「噂をすれば……のようだ」


 勢いよく階段を駆け上がってくる姫奈。


「来ましたわ!」


 その後ろから、少し息を切らせた仁も姿を見せた。


「こんにちは」


 仁は丁寧に頭を下げる。


 雛を見た姫奈は急にもじもじし始めた。


「ほら、姫奈」


 仁に促され、姫奈は深呼吸を一つする。


 そして意を決して口を開いた。


「お、お姉様!」


 ぶふっ!


 楸がお茶を吹き出した。


「え!?」


 美玲も思わず目を丸くする。


「先に言うことがあるだろ!」


 仁が慌てて突っ込んだ。


 そして雛へ向き直り、深々と頭を下げる。


「哀沢先輩、昨日はすみませんでした!」


「申し訳ございませんでした!」


 姫奈も続けて頭を下げた。


 雛は静かに頷く。


 顔を上げた姫奈は、おそるおそる雛を見つめた。


「それで、あの、雛先輩……」


「ん……」


「お姉様って呼ばせてくださいませ!」


 雛は少し考える。


「……生き別れの妹?」


「雛、そうじゃなくて!」


 美玲がすかさず突っ込む。


 首を傾げる雛。


 仁が苦笑しながら説明した。


「姫奈は哀沢先輩のことを、初めて本気で憧れる人だと思ったみたいで、憧れの最上級を言葉にしたところ、お姉様になったみたいです……」


「そういうことですわ!」


 姫奈は力強く頷いた。


 楸は雛を見る。


「哀沢、どうする?」


「かわいい妹分ができたって感じ?」


 美玲が笑う。


 雛は真剣に考えた。


「じゃあ、妹って呼ばなきゃ?」


「私の事は姫奈とお呼びくださいな」


「それなら、好きに呼べばいい」


 姫奈の表情がぱっと明るくなる。


「俺も、雛先輩って呼んでいいですか?」


「許可」


「ありがとうございます!」


 二人は同時に頭を下げた。


「弟分もできた感じね」


 楸と美玲が笑う。


 照れ笑いを浮かべる姫奈と仁。


 二人も弁当を広げ、五人で昼食を取りながら雑談を始めた。


「早速雛先輩に質問なんですけど……」


「うん」


「どうすれば、そこまで強くなれるんですか?」


 少し考える雛。


 その前に楸が笑った。


「たぶん、聞いても参考にならねぇぞ?」


「どうしてですの?」


 姫奈が不思議そうに尋ねる。


「影山、昨日お前が気絶した技、風神って言うんだが」


「はい」


「あれは哀沢が考案した技だから、教わろうとしたんだよ」


 楸は苦笑した。


「そしたら、『掌打でサンドバッグ弾けさせられるなら』って言われて、その瞬間諦めたわ!」


「は、はは……」


 仁は乾いた笑いを漏らす。


「さすがお姉様……」


 姫奈は尊敬の眼差しを向けた。


「だから、哀沢の強さは俺たちの常識の外側だと思っておいた方がいいぞ」


「それでこそ、私が心底憧れるお方ですわ!」


 楸は今度は仁へ視線を向ける。


「俺は影山の強さにも興味あるんだがな」


「俺ですか?」


「城ヶ崎の強さは格闘技の強さだって分かる。だが、影山の強さは、どっちかと言うと哀沢寄りだ。どこで身に付けた?」


 少し考えた仁が口を開く。


「俺の家は、代々城ヶ崎家当主のボディガードなんです」


「そうですわ」


 姫奈も頷いた。


「なので、俺の家に代々伝わる武術で、毘聚流と言います」


「一子相伝みたいなもんか」


「源流はあるみたいですけど、詳しくは知りません。まだ皆伝してませんし」


 雛が静かに口を開く。


「……毘聚流。インドが源流の殺人拳。語源はビシュヌから」


「雛!?」


「お姉様!?」


「哀沢、武術関係で知らねぇことねぇのか!?」


 三人が同時に驚く。


「引導流と通じる物がある」


 楸は嫌な予感がした。


「まさか使えたりしねぇよな……?」


「楸先輩?」


 仁が首を傾げる。


 雛は立ち上がり、仁へ視線を向けた。


「構えて」


「はい」


 仁は迷わず構えを取る。


 次の瞬間。


 構えた両手が外側へ弾かれ、雛の手刀の先が仁の心臓の上へぴたりと止まっていた。


「これは!」


 仁の目が見開かれる。


「昨日、私には当てられなかったけど、ここから刺突で胸を突き刺す技」


「毘聚流の技、穿孔です……」


 仁は呆然と呟いた。


「仁はまだ未完成ですのよね?」


「まさか、この先もできるんですか?」


「死んじゃう」


 雛はあっさり答えた。


「もう俺は驚かんぞ?」


 楸は肩をすくめる。


「雛ですから……」


 美玲も苦笑した。


 大量の汗が流れる仁。


「た、確かに、常識の外側ですね……」


「さすがお姉様ですわ」


 姫奈は満足そうに微笑む。


 仁は頭を掻きながら苦笑した。


「姫奈、俺は師匠って呼びたくなってるわ」


「ん?」


 雛は首を傾げた。


 一日で妹分と弟子ができた事を、まるで理解していない雛だった。


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