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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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第82話 雛のバレンタイン


 三学期も始まり、早くも二月。


 一年生も残りわずかとなり、雛と美玲は進級について話していた。


「四月から新一年生が入学してくるから、私たちも先輩になるんだねー」


 美玲が嬉しそうに笑う。


 雛も小さく頷いた。


「楽しみ」


「その前に、今月はバレンタインがあるけどね!」


 雛は少し首を傾げた。


「この星をドーナツ状に取り巻く、高エネルギーの荷電粒子が密集している領域のこと?」


 美玲は目を丸くする。


「ごめん、難しくて何の事か分かんない!」



 帰宅した雛は、制服のままリビングへ向かった。


「ただいま」


 紫亜が穏やかな笑顔で迎える。


「おかえりなさいませ」


 紅茶を飲みながら向かい合う二人。


 雛がカップを置いた。


「紫亜さん」


「はい」


「あのね」


 学校での美玲との会話を話す。


 最後まで聞いた紫亜は、小さく頷いた。


「雛様、それはバンアレン帯です」


「合ってるよね」


「美玲さんが仰ったのは、バレンタインです」


 雛は少し考える。


「司祭の記念日?」


「現在は、女性が意中の人やお世話になっている人にチョコレートを渡す日というのが、一般的ですね」


「そっか」


 紫亜は優しく微笑んだ。


「雛様は誰か渡したい方は、いらっしゃらないのですか?」


「うーん……」


 少し悩む雛を、紫亜は微笑ましく見つめていた。



 バレンタインまであと二日。


 教室では女子達がチョコレートの話題で盛り上がっている。


 美玲が雛へ身を乗り出した。


「雛は誰かにチョコあげるの?」


「わかんない。美玲は?」


「とりあえず、お父さんは確定かなー」


 少し照れ笑いを浮かべた美玲は、続けて聞いた。


「雛はお父さんにあげないの?」


 雛は静かに答える。


「あげたいけど、どこに居るかわかんないから」


「連絡取れないの?」


「スマホ持ってるかもわかんない」


「そっかー……」


 美玲は何かを思い付いたように顔を上げた。


「あ! 楸先輩は?」


「なんで?」


「チャンピオンになったお祝い代わりに……とか?」


 雛は腕を組んで考え込む。


「うーん」


「気が進まない?」


「チャンピオンになったって言うなら、お礼もらってないし」


 美玲は思わず吹き出した。


「厳しいね!?」


 笑いながら続ける。


「明日だと売り場もすごい人だと思うから、今日の帰りに買いに行くつもりだけど、雛も行く?」


「一応行く」



 二人が向かった駅前のショッピングモールには、バレンタイン特設コーナーが設けられ、色とりどりのチョコレートが並んでいた。


 美玲が目を輝かせる。


「すごい種類!」


 雛も店内を見回した。


「こんなにあるんだ」


 二人はチョコレートを見て回る。


 珍しい物を見つけては見せ合い、思わず笑い合う。


 やがて美玲が一つの箱を手に取った。


「私は決めたから、買ってくるね」


「うん」


 美玲がレジへ向かう。


 その間も雛は一つひとつ見比べていた。


「……よし」


 小さく頷き、一つ選んでレジへ向かう。


 買い物を終えた美玲が戻ってきた。


「お待たせ!」


「ううん」


「じゃあ、帰る?」


 雛は少し笑う。


「アイス食べよう」


 美玲も笑顔になった。


「いいね!」



 帰宅した雛は、買ってきたチョコレートを鞄へしまい、リビングへ入った。


「ただいま」


「おかえりなさいませ」


 雛は紫亜を見つめる。


「紫亜さん」


「はい」


「美玲に、お父さんにチョコあげないの?って聞かれた」


 紫亜は少しだけ表情を曇らせた。


「すみません。お父様が今何処にいらっしゃるのか、私にも分からないので……」


 雛は首を横に振る。


「ううん、いいの」


 少し寂し気な雛だった。



 バレンタイン当日。


 朝から男子はどこか落ち着かず、女子もチョコレートを渡すタイミングを見計らっていた。


 そんな空気に包まれたまま放課後を迎える。


 帰り支度を終えた美玲が、雛へ声を掛けた。


「楸先輩のジム行くけど、雛も行く?」


 雛は首を横に振る。


「ううん、先に帰る」


「じゃあ、また明日ね!」


 校門で別れた美玲は、その足で楸の所属するジムへ向かった。


 扉を開ける。


「こんにちはー!」


 楸が振り返った。


「よう、一人か? 珍しいな」


「高山君居ます?」


 美玲に気付いた高山が駆け寄ってくる。


「神崎さん!」


 美玲は小さな箱を差し出した。


「はい」


 高山は驚いたように受け取る。


「俺に? ありがとう!」


 照れ笑いを浮かべる美玲。


「もらえるアテないって言ってたし……」


 楸は笑いながら高山の肩を叩いた。


「よかったな、高山!」


 美玲は思い出したように言う。


「雛にも、楸先輩にチャンピオンになったお祝い代わりにあげたら?って言ったんですけど」


「ん?」


「チャンピオンになったって言うなら、お礼もらってないしって」


 楸は堪えきれず笑った。


「違いない!」



 一方その頃。


 雛は自宅へ帰っていた。


 鞄から小さな箱を取り出す。


「ただいま」


「おかえりなさいませ」


 雛は箱を両手で紫亜へ差し出した。


「紫亜さん、はい」


 紫亜は少し驚いたように目を見開く。


「私にですか?」


「お世話になってる人だから」


 紫亜は箱を受け取り、優しく微笑んだ。


「ありがとうございます。とても嬉しいですよ」


 雛も嬉しそうに微笑む。


「よかった」


 紫亜に喜んでもらえて嬉しい雛であった。


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