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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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80/102

第80話 年越し


 大晦日の夕方。


 一行を乗せた車は、山道の入口へ到着した。


 紫亜がエンジンを切る。


「到着しましたよ」


 美玲が笑顔で頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 楸と高山も続いて礼を言う。


 雛は助手席から紫亜を見る。


「紫亜さんも来る?」


 紫亜は優しく微笑んだ。


「別荘に行って、ジェームズと年越しします」


「そっか」


「除夜の鐘が鳴り終わる頃に、お迎えに参ります」


「わかった」


 紫亜を見送り、一行は山道を歩き始めた。


 やがて山門へ辿り着く。


 祥子が笑顔で手を振った。


「いらっしゃい!」


 美玲も笑顔になる。


「祥子ちゃん、誘ってくれてありがとう!」


「久しぶり!」


 楸が手を挙げる。


「お久しぶりです!」


 高山も頭を下げた。


 雛は楽しそうに辺りを見回す。


「除夜の鐘、楽しみ」


 祥子は笑った。


「先に年越しそばだけどね」


 美玲の表情が明るくなる。


「おそばまで? 嬉しい!」


 すると雛が祥子を見る。


「その前に、祥子ちゃん」


「どうしたの?」


「ちょっと道場で、丈夫な人貸して」


 祥子は額へ手を当てた。


「嫌な予感しかしないわね……」



 道場。


 門弟達が一斉に頭を下げる。


「お久しぶりです!」


 祥子が雛を見る。


「丈夫な人って、誰でもいいの?」


「雷神を理解してる人かな」


「じゃあ、師範代ね」


 師範代が一歩前へ出る。


「わかりました!」


 美玲は不安そうに雛を見る。


「雛、何する気?」


 高山も苦笑した。


「なんかドキドキするんですけど」


 師範代が構える。


 雛も雷神を放つ前の独特な構えを取った。


 楸が祥子へ聞く。


「なあ、あの構えって、なんで取るんだ?」


「あの構えから最速で雷神を放てるってのもあるんだけど、今から雷神撃つから、ちゃんと避けないと死ぬよって合図でもあるのよ」


「なるほどな……」


 雛が踏み込む。


 雷神を予測した師範代は、両手で顎を固めた。


 その瞬間。


 拳が届く一メートル手前で、雛は拳を開き、掌を師範代へ向ける。


 パンッ。


 破裂音が道場へ響いた。


 風圧だけで師範代の顔面が後方へ波打つ。


 師範代は目を回し、その場へ倒れ込んだ。


「今の何!?」


 祥子が驚きの声を上げる。


 雛は平然と答えた。


「私が作った奥義」


 美玲が目を丸くする。


「奥義って作れるの!?」


 祥子は苦笑した。


「……何年も、何十年もかければね」


 楸が興味深そうに聞く。


「名前はあるのか?」


 雛は少し考えた。


「……風神」


「すげー!」


 高山が目を輝かせる。


 祥子は頷いた。


「雷神と対ってこと?」


「雷神をガードすれば風神が当たるし、その逆も」


 頭を振りながら起き上がる師範代を見る祥子。


「ちなみに、今の風神、直接当てたらどうなるの?」


 雛は少し考える。


「……内臓破裂?」


 祥子は思わず叫んだ。


「さらっと怖いこと言わないでよね!?」


 楸は腕を組む。


「風神があることで雷神が避けられず、雷神があるから風神も避けられないってことか……」


 高山が感心したように言う。


「格ゲーの強制二択みたいですね!」


 楸は呆れたように笑う。


「アホか、どっちも死ぬ技だぞ」


「あ……そうでした」


 高山は苦笑した。


 美玲がため息をつく。


「高山君のバカ」


 祥子は雛へ向き直る。


「雛、ちなみに教えてって言ったら教われる技なの?」


 楸も興味津々だった。


「俺もそこは興味あるわ」


 雛は少し考えて答えた。


「掌打でサンドバッグ弾けさせるようになれば」


 祥子は額を押さえる。


「あんたに聞いた私がバカだったわ……」


 楸も苦笑する。


「無茶言うなよ師匠」


 美玲は苦笑いを浮かべた。


「雛だから……」


 一同は揃って頷く。


 一方で門弟達だけは戦慄していた。


 祥子が咳払いする。


「さ、さあ年越しそば食べましょ!」


「そ、そうね!」


 美玲も話題を切り替えた。


 雛は嬉しそうに頷く。


「楽しみ」



 その後は和やかな雰囲気で年越しそばを食べた。


 食後は夜までトランプをして過ごす。


 しかし勝負の結果は変わらない。


 また雛が全勝し、祥子は悔しそうに机へ突っ伏した。



 夜。


 祥子は時計を見上げた。


「そろそろ除夜の鐘の準備するけど、みんな順番はどうする?」


 楸が手を挙げる。


「一番でもいいか?」


「じゃあ、次は自分で!」


 高山が続く。


 雛は静かに言った。


「私は最後でいい」


 美玲が笑う。


「じゃあ、雛の前で」


「OK! 時間になったら並んでもらうから、また呼びに来るわ」


「わかった」



 二十三時頃。


 除夜の鐘が始まった。


 最初に楸。


 二番目は高山。


 その後は一般参拝客達が順番に鐘を撞いていく。


 年越し直前。


 美玲が鐘を撞いた。


 そして。


 新しい年を迎えた瞬間。


 雛の番が回ってきた。


 祥子が笑顔で声を掛ける。


「雛、最後締めて」


「うん」


 雛は撞木を大きく振りかぶる。


 次の瞬間。


 轟音。


 除夜の鐘とは思えないほどの音が山中へ響き渡った。


「ちょっ! マジ!?」


 祥子が目を見開く。


「雛!?」


 美玲も驚く。


 楸だけは苦笑しながら頷いた。


「すげぇな」



 こうして、無事? 除夜の鐘は終了した。


 だが。


 鐘の内側へ小さなひびが入っていた事は、誰も知る由もなかった。


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