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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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第77話 哀沢家のサンタクロース


 サンタクロースの話を聞いた翌日から、雛の修行が始まった。


 今まで以上に神経を研ぎ澄ませ、僅かな気配も逃さない事だけに集中する。



 華薗学園。


 休み時間。


 雛は静かに窓際へ立ち、廊下へ意識を向けていた。


 目は閉じたまま。


 数秒後、小さく口を開く。


「今、廊下に七人」


 教室の扉が開く。


 本当に七人だった。


 クラス中が驚きの声を上げる。


「すごっ!」


「また当たってる!」


 美玲は苦笑しながら雛を見る。


「なんか、いつにも増してすごくない!?」


 雛は真面目な顔で答えた。


「寝てる時は少し鈍るから、まだこれくらいじゃサンタさんに気づけないかも」


 美玲は笑顔のまま固まった。


(紫亜さん、かなり大変な事になってますよ……)


 紫亜の心痛を思い、白眼を剥きそうになる美玲だった。



 雛の修行は、学園、帰宅途中、自宅を問わず続く。


 その様子を見ていた紫亜は、本気で困っていた。


 家の中で何か呟くと雛に聞こえてしまうので、外出して考える。


 夜の街を歩きながら、小さく呟く。


「雛様は、かなり本気」


 視線を前へ向けたまま続ける。


「本気の雛様に気づかれずにプレゼントを置くのは、私でも無理ね……」


 雛に聞こえない場所へと考えながら歩いていた紫亜は、気づけば高層ビルの屋上まで来ていた。


 夜風が静かに吹く。


「ああ、本当に困りました」


 意を決して目を閉じ、深く頷く。


「……よし」



 翌日。


 クリスマスイブ。


 出掛ける支度をした雛が玄関へ向かう。


「ちょっと祥子ちゃんとこ行ってくる」


 紫亜は少し驚いた。


「クリスマスイブですよ?」


「サンタさん来るの明日の夜だよね?」


「そうですね。でも、美玲さんとクリスマスパーティはしないのですか?」


「初めてのクリスマスだから、来年は一緒にしようって事になった」


 紫亜は微笑む。


「では、お送りしましょうか」


 雛は首を振る。


「トライアスロンの時のバイクあるから、一人で行ってくる」


「そうですか。お気をつけて行ってらっしゃいませ」


「夕食までには帰るから」


 トライアスロンバイクへ跨り、軽快に走り出す雛。


 紫亜は静かに見送った。



 尋常ではない速度で山門まで辿り着いた雛。


 祥子は門弟達と境内の掃除をしていた。


「祥子ちゃん」


 祥子が振り返る。


「雛?」


「ちょっと付き合って」


「わざわざクリスマスイブに?」


「すぐに終わるから」


 祥子は首を傾げた。


「何するつもり……?」



 道場内。


 中央へ座った雛は、自ら目隠しをした。


「何人でもいいから、なるべく気配を消して動いてみて」


「まあ、いいけど」


 祥子が門弟達へ頷く。


 三人の門弟が気配を殺して動き始める。


「……三人」


「当たり!」


 続いて五人。


 その内二人は片足だけ動かしている。


「五人。二人は片足」


「嘘だろ!?」


 さらに六人が動く。


 その隙に祥子は道場の奥へ移動した。


 そっと鼻の頭を掻く。


「七人。祥子ちゃんは鼻の頭掻いてる」


「なんでそんな事まで分かるわけー!?」


 雛は目隠しを外した。


「よし!」


 満足そうに頷く。


 祥子は苦笑した。


「結局、何の修行なの?」


 雛は当然のように答えた。


「サンタさんに会うため」


「へ?」


「祥子ちゃん、またね」


 再びトライアスロンバイクへ跨り、山道を軽快に駆け下りて行く。


 その後ろ姿を見送りながら、祥子は苦笑した。


「嵐のようだったわね」



 帰りも、トライアスロンバイクとは思えない速度で走る雛。


 夕食前に帰宅する。


「ただいま」


「おかえりなさいませ」


 紫亜が迎える。


「明日の準備は整った」


「そうですか」


「楽しみ」


 その笑顔を見て、紫亜も穏やかに微笑んだ。



 翌日。


 クリスマス当日。


 朝から雛はそわそわしていた。


 別の意味でそわそわする紫亜。


 その心境も知らず、雛はただただ楽しみに夜を待っていた。



 夕食はクリスマスらしく、ローストターキーが食卓を飾り、紫亜特製のクリスマスケーキに雛のテンションは上がった。


 ケーキを食べ終わり、紅茶を飲み終えた雛が立ち上がる。


「もうおやすみになられますか?」


「うん」


 少しだけ笑う。


「サンタさん、いつでもいいから……」


 部屋へ戻る雛。


 紫亜にはある確信があったが、不安は消えなかった。


 そして、クリスマスとは思えない緊張感の中、哀沢家の夜は更けていった。



 真夜中。


 眠る雛の枕元に、確かにプレゼントを置く人影が見えた。



 翌朝。


 朝食の準備をしていた紫亜は、そろそろ雛を起こす時間かと時計に目を向けた。


 その瞬間。


 勢いよく自室から飛び出してくる雛。


「紫亜さん!」


「おはようございます、雛様」


 両手で四十センチ四方の箱を掲げる。


「サンタさん来た!」


「全然気づけなかった!」


 何も言わず、胸を撫で下ろす紫亜。


 珍しく興奮している雛。


「私もまだまだ修行が必要」


 紫亜は優しく微笑んだ。


「それよりも、プレゼントを開けてみた方がいいかと」


 気を取り直した雛は頷く。


「うん」


 箱を開け、プレゼントを取り出す。


「ベルト……?」


 紫亜も覗き込む。


「ただのベルトではなさそうですね」


 バックルの部分が通常より長めに見えるそのベルトは、展開すると剣になり、鞭のようにもしなった。


 雛の目が少しだけ輝く。


「おお……」


「かっこいい」


 紫亜は微笑んだ。


「普段はベルトとして使えるのが良いですね」


 嬉しそうにベルトを眺める雛。


「今日から使う」


 喜ぶ雛を確認した紫亜は、視線を上へ向け、静かに呟いた。


「ありがとうございました……」


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