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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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第76話 クリスマス


 フェスの後も、雛の日常は穏やかに巡っていた。


 学校へ通い。


 授業を受け。


 美玲と他愛もない話をしながら帰る。


 そんな日々を重ねるうちに、気づけば十二月も半ばまで来ていた。


 街路樹にはイルミネーションが灯り、商店街からはクリスマスソングが流れている。


 吐く息も白くなり、冬の訪れを感じさせていた。



 学校帰り。


 雛と美玲は並んで歩いていた。


 二人とも制服の上から学校指定のカーディガンを羽織っている。


 美玲が笑顔で口を開いた。


「もうすぐクリスマスだねー」


 雛は少し考えて答える。


「クリスマス……知識では知ってる」


 美玲は少し驚いた。


「クリスマスプレゼントもらった事ないの?」


「うん」


「サンタさん来なかったんだー」


 雛は首を傾げる。


「サンタさん?」


 美玲は楽しそうに説明した。


「赤い上下の服を着て、トナカイに乗ってやってきて、クリスマスの夜に子供達にプレゼントを配るのよ」


 雛はしばらく考え込む。


「…………テロ行為?」


 美玲は思わず声を上げた。


「だから、なんで思考が物騒な方向に行くのよ!?」


 雛は真剣な表情のまま呟く。


「サンタさんか……」


 美玲は苦笑した。


「まあ、サンタさんからって言いながら、寝てる間に親がプレゼント置いてるだけなんだけどねー」


 しかし。


 考え込む雛の耳に、美玲の言葉は届いていなかった。



 哀沢家。


「ただいま」


「おかえりなさいませ」


 紫亜が穏やかに迎える。


 雛は鞄を自室へ置き、リビングへやって来た。


「紅茶でよろしいでしょうか?」


「うん」


 湯気の立つ紅茶を前に、二人は向かい合う。


 しばらく静かな時間が流れた。


 雛が口を開く。


「紫亜さん」


「はい」


「サンタさんて、うちに来る?」


 紫亜は少しだけ目を丸くした。


「サンタさんですか?」


「美玲が、クリスマスの夜に子供達にプレゼント配ってるって」


 思わず苦笑する紫亜。


「美玲さんたら」


 雛は期待するような表情で続ける。


「うちに来たら会えるね」


 紫亜は少し考えてから答えた。


「まあ、うちに気配を感じさせずにプレゼントを置いていくのは、至難ですから」


 雛は静かに頷く。


「サンタさん、お父さんくらい強いのかも……」


 紫亜は遠い目をした。


「……そこまでですか?」


「だって、本気のお父さんの気配、感じ取れたことないし」


 その言葉に、紫亜は何も返せなかった。


 少し考え込んだ後、静かに立ち上がる。


「ちょっと出かけてきますね」


「うん」



 夕方。


 紫亜のスポーツカーが、美玲の家の前へ静かに停まった。


 車を降りると、玄関のチャイムを鳴らす。


 間もなくインターホン越しに、美玲の母の声が聞こえた。


「どなたで……紫亜さん?」


「夜分にすみません。美玲さんはご在宅でしょうか?」


「居ますよ。少々お待ちくださいね」


 しばらくして玄関の扉が開き、美玲が姿を現した。


「紫亜さん、どうしたんですか?」


 紫亜は小さく微笑む。


「お電話だと雛様に聞こえてしまうので、直接お伺いしました」


 美玲はすぐに事情を察した。


「雛に内緒なんですね」


 紫亜は頷く。


「サンタクロースのお話なのですが……」


「ああ、今日の帰りに話してたんですよ。プレゼントは結局、寝てる間に親が置いてるって言っちゃったんで、雛がっかりしてました?」


 紫亜は少し考え込んだ。


「美玲さんのそのプレゼントのくだり、雛様は聞いてなかったようです……」


 一瞬、沈黙が流れる。


 美玲は目を丸くした。


「信じちゃってる!?」


 思わず額に手を当てる。


「明日、私からもう一度話しますよ!」


 しかし、紫亜はゆっくりと首を横に振った。


「いえ、ありがとうございます。では、今日はこれで」


 そう言って軽く一礼する。


 美玲もつられて頭を下げた。


「お役に立てることがあれば、いつでも言ってくださいね」


 紫亜は優しく微笑み返した。


「ありがとうございます」


 再び一礼すると、スポーツカーへ乗り込む。



 夜道を走るスポーツカー。


 街は色鮮やかなイルミネーションに包まれていた。


 紫亜はハンドルを握りながら、一人静かに考え込む。


「さて、どうするのが最適解でしょうね……」


 その呟きだけが、静かな車内に溶けていった。


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