第71話 殿堂入り
決勝戦が終わった。
それでも。
道場の中は静まり返っていた。
誰もが試合場に立つ雛を見つめている。
その視線は歓喜ではない。
畏怖だった。
皆伝者。
師範。
ある程度の高弟。
その場にいる者達は知っていた。
雷神。
引導流に伝わる奥義。
皆伝者と師範なら習得済みの技。
だが。
躊躇なく使える者はほとんどいない。
だからこそ。
雷神は奥義と呼ばれていた。
「使った……」
「雷神を……」
「躊躇なく……」
口々に呟く者達。
雛だけは何も気にすることなく、試合場に立っていた。
祥子が駆け寄る。
「雛!」
「祥子ちゃん、勝った」
「雷神よ!?」
「うん」
「構えしか見せてなかったよね?」
「お父さんに習ったの?」
「ううん」
「じゃあ、なんで使えるのよ!?」
楸が苦笑する。
「それ以上聞かない方がいい」
高山も頷く。
「俺もそう思います」
美玲も苦笑した。
「祥子ちゃん、やめた方がいいよ」
「……なんで?」
楸は肩を竦める。
「どれだけ聞いても納得できないだろうからな」
「うー……」
祥子は問い詰めたい目で雛を見る。
「?」
雛は首を傾げるだけだった。
◇
その間も審判や関係者の間で議論が続いていた。
「文句のつけようのない勝利です」
審判が静かに言う。
関係者の一人が頷く。
「勝利は揺るがないし、優勝にケチをつける気もない」
「では、何を……?」
その後も議論は続いていた。
楸が様子を見ながら呟く。
「なんか揉めてねぇか?」
祥子も首を傾げる。
「うん、こんな事初めて」
高山が表情を曇らせる。
「優勝にケチつけられてるとか?」
美玲は首を横に振った。
「そんなの! ありえないよ!」
さらに議論は続く。
やがて。
「伊集院さん」
審判に呼ばれた祥子が歩み寄る。
何かを告げられる。
「え?」
思わず聞き返す。
「ああ、はい……わかりました」
祥子が戻ってきた。
楸が尋ねる。
「何だって?」
高山も続く。
「やっぱりケチつけられたんですか?」
美玲は拳を握る。
「もしそうなら許せない!」
「ねえ」
四人が雛を見る。
「表彰状まだ?」
一瞬。
沈黙。
祥子は苦笑した。
「もうすぐだから待ってて」
「そっか」
雛は静かに頷いた。
◇
しばらくして。
審判が試合場中央へ立つ。
「今大会の優勝者は、引導流伊集院家!」
道場に歓声が響く。
審判は続けた。
「尚、今回の伊集院家の代表者、哀沢雛殿は、今大会をもって殿堂入りとなりました!」
「殿堂?」
雛は首を傾げる。
楸は納得したように頷いた。
「なるほど」
高山は目を丸くする。
「一発殿堂入りですか!?」
美玲は満面の笑みを浮かべた。
「すごーい!」
祥子は苦笑する。
「あはは……」
賞状を受け取る雛。
満足そうに眺める。
参加者達も今日の興奮を語り合いながら、それぞれ帰路についた。
◇
山門。
祥子が雛達を見送る。
「今回はありがとうね!」
「楽しかった」
楸が笑う。
「さすが師匠だ」
高山も笑顔で頷く。
「すごすぎです!」
美玲も笑う。
「また部屋に賞状飾るのね」
「うん」
祥子が手を振る。
「気をつけて帰ってね!」
「また呼んで」
一瞬。
祥子の笑顔が引きつった。
「う、う……ん」
「?」
雛は不思議そうに首を傾げる。
楸が笑う。
「さあ、帰るぞ!」
山道の入口には紫亜のミニバンが待っていた。
「紫亜さん」
「お疲れ様でございました」
紫亜は穏やかに微笑む。
「皆さん、お宅までお送りしますね」
「ありがとうございます!」
◇
哀沢家。
皆を送り届けた後。
リビングで雛と紫亜が向かい合っていた。
「大会はいかがでしたか?」
「楽しかった」
「それは何よりです」
雛は紅茶を一口飲む。
「紫亜さん」
「はい」
「殿堂入りって何?」
「優勝したあと、そう言われた」
紫亜は静かに頷く。
「なるほど」
「楸先輩は知ってるみたいだったけど」
「でしょうね」
「祥子ちゃんに、また呼んでって言ったら、引きつってた」
紫亜は微笑んだ。
「雛様。殿堂入りとは、次回からは出場できないという事です」
「えー……」
「雛様は、殿堂入りという名の出禁にされたという事ですね」
静かに頷く紫亜。
納得できない目を向ける雛だった。




