第7話 体験入部
放課後。
雛は総合格闘技部の道場へ向かっていた。
体験入部の日だった。
案内された場所へ入ると、既に多くの部員が集まっている。
男女比は八対二ほど。
思っていたより女子部員も多かった。
「お」
体格の良い三年生が近付いてくる。
総合格闘技部の部長だった。
「体験入部?」
「はい」
部長は雛を見上げるように眺めた。
「君、大きいねー!」
雛の眉がぴくりと動く。
「小さい方だと思いますけど?」
「え?」
「家では一番小さいです」
「いや、そういう事じゃなくて」
「うるさいです……」
少し本気で不機嫌そうだった。
部長の背筋に妙な寒気が走る。
理由は分からない。
だが本能が告げていた。
これ以上この話題は駄目だと。
「……ああ、ごめんね」
気付けば謝っていた。
その様子を少し離れた場所から見ていた神崎美玲は思う。
やっぱりだ。
この子に「大きい」は禁句だ。
何となくだが理解してきた。
部長は咳払いをして話題を変える。
「それで体験入部だっけ?」
「はい」
「じゃあ、まずはストレッチから」
「組手がいいです」
即答だった。
部長が固まる。
「いや、まずは準備運動を――」
「組手がいいです」
雛は真面目な顔だった。
だから余計に困る。
「雛、大丈夫なの?」
美玲が小声で聞く。
「大丈夫」
雛は頷いた。
「手加減するから」
美玲は頭を抱えたくなった。
嫌な予感しかしない。
そんな空気を吹き飛ばすように、一人の男子部員が前へ出た。
「おもしれぇ」
筋肉質な体格。
自信に満ちた表情。
総合格闘技部のエースだった。
「俺とやろうか」
周囲がざわつく。
「先輩」
「大丈夫なんですか?」
「体験入部ですよ?」
だがエースは笑った。
「手加減するって言ってるだろ」
そして雛を見る。
「先に来ていいよ」
雛は頷いた。
「じゃあ……」
オープンフィンガーグローブを装着する。
距離を取る。
開始の合図。
部員達が見守る中、雛が静かに構えた。
重心を落とす。
身体を沈める。
低い姿勢。
エースは即座に理解した。
タックルだ。
速い。
だが見えている。
切れる。
そう確信した。
重心を落とし、迎撃の体勢へ入る。
次の瞬間だった。
雛の身体がしなる。
タックルの軌道。
そのはずだった。
だが違う。
低い姿勢のまま、跳ね上がるように右足が振り抜かれる。
ハイキック。
エースの視界が揺れた。
何が起きたのか理解するより早く意識が途切れる。
その身体が崩れ落ち、道場の床へ倒れた。
静まり返る道場。
誰も動かない。
理解できたのは一つだけだった。
総合格闘技部のエースが倒れている。
しかも一撃で。
美玲は呆然としていた。
部員達も固まっている。
部長だけが恐る恐る口を開いた。
「手加減……したんだよね?」
「死んでませんよね?」
部長は言葉を失った。




