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第6話 事前説明


 放課後。


 自室の机へ向かった雛は、鞄の中から数枚の案内用紙を取り出した。


 空手部。


 柔道部。


 ボクシング部。


 総合格闘技部。


 どれも面白そうだった。


 それぞれ違う魅力がある。


 しばらく見比べていたが、最終的に一枚だけを手元へ残す。


 総合格闘技部だった。


 打撃。


 投げ。


 関節技。


 様々な技術を組み合わせて戦う。


 説明会で見た内容を思い出しても、一番興味を引かれたのはそこだった。



「ただいま」


 帰宅すると、いつも通り紫亜が出迎えた。


「お帰りなさいませ」


 雛は鞄から案内用紙を取り出して差し出す。


「紫亜さん」


「はい」


「総合格闘技部に入ろうと思うんだけど」


 紫亜は用紙を受け取り、一通り目を通した。


 そして静かに頷く。


「それはよろしいかと」


「だよね」


 雛は少し嬉しくなった。


 反対されるとは思っていなかったが、賛成されるとやはり安心する。


 しかし紫亜はそこで言葉を切った。


「ですが……」


 雛は首を傾げる。


「何?」


 紫亜は真面目な表情になった。


「雛様」


「うん」


「総合格闘技というのは、何をやっても良いという訳ではありませんよ?」


 雛は固まった。


「え……?」


 紫亜は嫌な予感がした。


 今の反応は理解していない顔だ。


「お父様やおじ様から教わった技を全部使ってはいけません」


「なんで?」


 即答だった。


 紫亜は思わず額を押さえそうになる。


「死にます」


「え?」


「相手が」


「ああ」


 雛は納得した。


 納得してしまった。


 紫亜は少し頭が痛くなる。


「雛様」


「うん」


「お二人から教わった技術の二割くらいしか使えないでしょう」


「ええー……」


 本気で不満そうな声だった。


 だが紫亜は譲らない。


 むしろ二割でも多い気がする。


「それくらい危険だと自覚してください」


 雛は納得していない顔だった。


 しかし紫亜の表情を見る限り、これ以上交渉の余地は無さそうだった。



 夕食を終えた後、雛はソファへ寝転びながら考えていた。


 二割。


 二割しか使えない。


 かなり厳しい。


 それでも総合格闘技部は面白そうだった。


「でも」


 雛は紫亜を見る。


「相手が殺す気で来たら?」


 紫亜は少し考えた。


 本当に少しだけだった。


 数秒ほど沈黙した後、結論を出す。


「その場合は引越しも考えますので、殺して構いません」


 雛は瞬きをした。


「いいんだ……」


 紫亜は当然のように頷く。


「はい」


 迷いは無かった。


「ただし」


「?」


「後処理が大変なので、出来れば避けてください」


「分かった」


 雛は素直に頷いた。


 納得したらしい。


 紫亜も頷く。


 これで問題ない。


 おそらく。



 その夜。


 雛は机の上に置かれた総合格闘技部の案内用紙を見つめていた。


 体験入部は明日。


 学校そのものにはまだ慣れない。


 だが総合格闘技部には少し興味があった。


 どんな人がいるのだろう。


 どれくらい強いのだろう。


 そんなことを考えているうちに、自然と口元が緩む。


 明日の放課後が少しだけ楽しみだった。

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