第6話 事前説明
放課後。
自室の机へ向かった雛は、鞄の中から数枚の案内用紙を取り出した。
空手部。
柔道部。
ボクシング部。
総合格闘技部。
どれも面白そうだった。
それぞれ違う魅力がある。
しばらく見比べていたが、最終的に一枚だけを手元へ残す。
総合格闘技部だった。
打撃。
投げ。
関節技。
様々な技術を組み合わせて戦う。
説明会で見た内容を思い出しても、一番興味を引かれたのはそこだった。
◇
「ただいま」
帰宅すると、いつも通り紫亜が出迎えた。
「お帰りなさいませ」
雛は鞄から案内用紙を取り出して差し出す。
「紫亜さん」
「はい」
「総合格闘技部に入ろうと思うんだけど」
紫亜は用紙を受け取り、一通り目を通した。
そして静かに頷く。
「それはよろしいかと」
「だよね」
雛は少し嬉しくなった。
反対されるとは思っていなかったが、賛成されるとやはり安心する。
しかし紫亜はそこで言葉を切った。
「ですが……」
雛は首を傾げる。
「何?」
紫亜は真面目な表情になった。
「雛様」
「うん」
「総合格闘技というのは、何をやっても良いという訳ではありませんよ?」
雛は固まった。
「え……?」
紫亜は嫌な予感がした。
今の反応は理解していない顔だ。
「お父様やおじ様から教わった技を全部使ってはいけません」
「なんで?」
即答だった。
紫亜は思わず額を押さえそうになる。
「死にます」
「え?」
「相手が」
「ああ」
雛は納得した。
納得してしまった。
紫亜は少し頭が痛くなる。
「雛様」
「うん」
「お二人から教わった技術の二割くらいしか使えないでしょう」
「ええー……」
本気で不満そうな声だった。
だが紫亜は譲らない。
むしろ二割でも多い気がする。
「それくらい危険だと自覚してください」
雛は納得していない顔だった。
しかし紫亜の表情を見る限り、これ以上交渉の余地は無さそうだった。
◇
夕食を終えた後、雛はソファへ寝転びながら考えていた。
二割。
二割しか使えない。
かなり厳しい。
それでも総合格闘技部は面白そうだった。
「でも」
雛は紫亜を見る。
「相手が殺す気で来たら?」
紫亜は少し考えた。
本当に少しだけだった。
数秒ほど沈黙した後、結論を出す。
「その場合は引越しも考えますので、殺して構いません」
雛は瞬きをした。
「いいんだ……」
紫亜は当然のように頷く。
「はい」
迷いは無かった。
「ただし」
「?」
「後処理が大変なので、出来れば避けてください」
「分かった」
雛は素直に頷いた。
納得したらしい。
紫亜も頷く。
これで問題ない。
おそらく。
◇
その夜。
雛は机の上に置かれた総合格闘技部の案内用紙を見つめていた。
体験入部は明日。
学校そのものにはまだ慣れない。
だが総合格闘技部には少し興味があった。
どんな人がいるのだろう。
どれくらい強いのだろう。
そんなことを考えているうちに、自然と口元が緩む。
明日の放課後が少しだけ楽しみだった。




