第5話 部活動説明会
翌日。
昼食を終えた一年A組の生徒達は体育館へ集められていた。
午後の授業は無い。
代わりに行われるのは部活動説明会だった。
「部活かぁ」
隣で神崎美玲が呟く。
「何か入るの?」
「まだ決めてない」
そう答えた美玲は、今度は雛へ視線を向けた。
「雛は?」
「分からない」
雛は短く答えた。
もっとも、本当に分からないのだ。
部活については紫亜から説明を受けている。
同じ趣味や目標を持った生徒達が集まる活動。
その程度の認識しかない。
興味はある。
だが実際に見てみないと判断できなかった。
◇
説明会が始まる。
最初は文化部だった。
吹奏楽部、美術部、写真部、演劇部。
各部の代表者が順番に活動内容を紹介していく。
どの部活も熱意は伝わってきた。
だが雛には今ひとつ実感が湧かない。
「写真部ちょっと面白そうかも」
美玲が小声で言う。
「そうなんだ」
「雛は興味ない?」
「別に」
正直な感想だった。
美玲は苦笑する。
だと思った。
◇
文化部の説明が終わると、今度は運動部の紹介が始まった。
こちらは実際の活動場所へ移動して見学する形式らしい。
新入生達は各施設へ向かう。
野球部はグラウンド。
サッカー部もグラウンド。
陸上部はトラック。
バスケットボール部は体育館。
どこも活気に満ちていた。
だが、格闘技系の施設へ近付いた辺りで雛の足が自然と遅くなる。
空手部。
柔道部。
ボクシング部。
そして総合格闘技部。
格闘技経験の無い生徒なら違いもよく分からないかもしれない。
しかし雛は違った。
各部が行っている練習を一目見るだけで、それぞれの特色が何となく理解できる。
その時だった。
「もちろん女子も歓迎です!」
総合格闘技部の部長が大きな声で言った。
雛の目が少しだけ見開かれる。
それは本当に一瞬だった。
◇
神崎美玲はその横顔を見ていた。
昨日までの付き合いは短い。
それでも分かる。
今の反応は興味がある時の顔だ。
たぶん本人は気付いていない。
だが確実に食いついている。
◇
空手部では型と組手が披露された。
柔道部では豪快な投げ技が飛び交う。
ボクシング部では軽快なフットワークと鋭いミット打ちが響いていた。
総合格闘技部では打撃だけではなく、投げや関節技、絞め技まで実演される。
雛は終始無言だった。
だが視線だけは一度も外れなかった。
どの部活も面白い。
本気でそう思った。
◇
「どうだった?」
見学が終わった後、美玲が尋ねる。
「面白そう」
即答だった。
美玲は思わず吹き出しそうになる。
昨日までの雛なら、もう少し考えてから答えたはずだ。
「どこが?」
「全部」
真顔だった。
だから余計に面白い。
◇
説明会が終わる頃には、各部活が体験入部の案内を配っていた。
空手部。
柔道部。
ボクシング部。
総合格闘技部。
雛は迷うことなく四枚とも受け取る。
そして帰り道でも、ずっとそれを見比べていた。
「どこ入るの?」
美玲が尋ねる。
「分からない」
雛は答えた。
だがその手にあるのは格闘技系部活の案内だけだ。
「本当に?」
「本当」
本人は真面目だった。
だからこそ信用できない。
美玲は笑いを堪えながら空を見上げる。
この数日で何となく分かってきた。
雛は変わっている。
そして格闘技が絡むと少しだけ分かりやすくなる。
たぶん近いうちに何か起きる。
根拠は無い。
だが確信はあった。
隣では雛が四枚の案内を真剣な顔で見つめている。
その表情は、ほんの少しだけ楽しそうだった。




