第4話 小テスト
翌朝。
雛は教科書を鞄へ入れながら昨夜のことを思い出していた。
『全部知ってる事しか書いてないんだけど……?』
『あー……』
紫亜は頭を抱えていた。
理由はよく分からなかった。
だが、あの様子を見る限り何か問題があるらしい。
雛には何が問題なのか分からなかったが。
◇
華薗学園。
一年A組。
黒崎恒一は出席簿を片手に教室へ入った。
「おはよう」
「おはようございます」
生徒達の声が返る。
雛も周囲に合わせて挨拶をした。
教壇へ立った黒崎は、教卓の上へ分厚いプリントの束を置く。
「今日から授業だ」
教室に小さなどよめきが広がった。
「と言っても初日だからな。各教科、小テストをやる」
途端に教室が静かになる。
「結果は後で担任の私に回ってくる」
「えー」
あちこちから不満の声が上がった。
黒崎は苦笑する。
「文句は聞かん」
◇
一時間目は国語だった。
配られた問題用紙を受け取り、雛は内容へ目を通す。
見たことがある問題だった。
昨夜読んだ教科書にも載っていた気がする。
解答欄を埋めて提出する。
二時間目は数学。
三時間目は英語。
四時間目は科学。
五時間目は歴史。
どの教科も似たような感想だった。
問題は難しくない。
教科書に書いてあることばかりだった。
雛は首を傾げながら答案用紙を提出していった。
◇
放課後。
ホームルームの時間。
教室へ入ってきた黒崎は大量の答案用紙を抱えていた。
「返すぞー」
その一言で教室がざわつく。
「早くないですか?」
「教師を舐めるな」
黒崎は答案を机へ置いた。
「採点くらいする」
生徒達の笑いが起きる。
そのまま答案が返却されていった。
教室のあちこちから悲鳴や歓声が聞こえてくる。
「うわっ!」
「赤点じゃねぇか!」
「よし!」
「思ったより取れた!」
そんな声が飛び交う中、黒崎は最後の一枚を手に取った。
「ちなみに」
教室が静かになる。
「全科目満点は一人だけだ」
生徒達が顔を見合わせた。
「誰だよ」
「天才じゃん」
「神崎じゃね?」
好き勝手な予想が飛び交う。
黒崎は答案へ目を落とした。
「哀沢」
「はい」
雛が手を上げる。
「全科目満点」
教室が揺れた。
「マジかよ!?」
「全部!?」
「すげぇ!」
「天才じゃん!」
周囲は大騒ぎだった。
だが雛には理由が分からない。
昨夜見た教科書に書いてあったことばかりだった。
むしろ間違える方が難しい気さえする。
そんな認識だった。
◇
放課後。
雛と美玲は並んで帰っていた。
「ねぇ」
美玲が声を掛ける。
「ん?」
「学校初めてじゃなかったっけ?」
「うん」
雛はあっさり頷いた。
美玲は立ち止まる。
「じゃあ何で満点なの?」
「勉強したから」
「どこで?」
「家」
「いつ?」
「ずっと」
美玲は頭を抱えた。
「意味分かんない」
「そう?」
「そう!」
即答だった。
雛にはよく分からない。
勉強した。
問題が出た。
答えた。
それだけだ。
「おじさん厳しかったし」
「おじさん?」
「勉強教えてくれた人」
美玲は昨日の会話を思い出した。
学校へ通ったことがない。
勉強は家で習った。
友達は二十代や三十代。
そして全科目満点。
情報が増えるほど意味が分からなくなる。
「やっぱり変だよ」
「そう?」
「そう」
美玲は断言した。
雛は少し考えたが、やはり何がおかしいのか分からなかった。
そんな雛を見て、美玲は思わず笑う。
やっぱり面白い。
この友達は。




