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第3話 友達


「ただいま」


 玄関を開けると、すぐに返事が返ってきた。


「お帰りなさいませ」


 紫亜だった。


 エプロン姿でキッチンから顔を出す。


「夕食はもう少しで出来ます」


「分かった」


 雛は靴を脱ぎ、自室へ向かった。


 制服を着替え、鞄を置く。


 そしてリビングへ戻ると、既に食卓には夕食が並んでいた。


 席へ座る。


「いただきます」


「はい」


 雛は箸を取った。


 目の前に並んでいるのは肉料理だった。


「肉?」


「本日は高校入学のお祝いです」


 紫亜は微笑む。


「そういうもの?」


「そういうものです」


 雛は頷き、料理を口へ運んだ。


 美味しい。


 いつも通り美味しかった。


「どうでしたか?」


 紫亜が尋ねる。


 雛は肉を口へ運びながら答えた。


「友達できた」


 紫亜の動きが止まった。


「……そうですか」


 少しだけ声が震えている。


 嬉しそうだった。


 雛は知っている。


 こういう時の紫亜は喜んでいる。


「神崎美玲」


「ご友人のお名前ですか?」


「うん」


 紫亜は静かに頷いた。


 だが口元は少し緩んでいる。


 雛は少しだけ面白かった。


「学校はどうでしたか?」


「変だった」


「変ですか」


「うん」


 雛は今日の出来事を思い出す。


「色々聞かれた」


「そうですか」


 紫亜は頷く。


 そして少し考えた後、静かに口を開いた。


「雛様」


「ん?」


「ご友人には、あまり話さない方が良い事もあります」


「例えば?」


「学校へ通ったことがないこと」


「言った」


 紫亜の動きが止まる。


「勉強をどなたに教わったか」


「言った」


 紫亜は目を閉じた。


「友人関係について」


「言った」


 雛は少し考える。


 そして結論に辿り着いた。


「全部喋った……」


 紫亜は静かに額を押さえた。


「あー……」


 頭が痛そうだった。


「ダメだった?」


「ダメではありません」


「じゃあいいじゃん」


「良くありません」


 即答だった。


 雛にはよく分からない。


 だが紫亜が困っていることだけは分かった。


「次から気を付ける」


「そうしてください」


 紫亜は疲れたように頷く。


 それから少しだけ表情を柔らかくした。


「ですが」


「?」


「ご友人が出来たのは良い事です」


 雛は少し考える。


 友達。


 そういうものなのだろうか。


「多分」


 そう答えると、紫亜は微笑んだ。


 やっぱり嬉しそうだった。



 夕食を終えた後。


 雛は鞄から教科書を取り出した。


「明日から授業なのですね」


 紫亜が言う。


「うん」


「教科書はもう見てみました?」


「まだ」


 国語を開く。


 数ページ読む。


 閉じる。


 数学を開く。


 閉じる。


 英語を開く。


 閉じる。


 科学。


 歴史。


 同じだった。


 雛はしばらく教科書の山を見つめる。


 そして顔を上げた。


「紫亜さん……」


「はい?」


「全部知ってる事しか書いてないんだけど……?」


 紫亜は固まった。


「あー……」


 そして静かに頭を抱えた。

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