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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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65/102

第65話 代理


 哀沢家。


 夕食を終えた雛は、庭で日課となっている引導流のシャドーを続けていた。


 静かな夜。


 踏み込み。


 拳。


 肘。


 掌。


 足運びは流れるように繋がり、一切の無駄がない。


 改良を重ねた引導流。


 その動きは日に日に身体へ馴染み、一打一打の精度も増していた。


 最後の一撃を放つ。


 静かに息を吐く。


「ふぅー……」


 そこへ紫亜がタオルと冷えたお茶を持って歩いてくる。


「お疲れ様です」


「ありがとう紫亜さん」


 汗を拭き、お茶を一口飲む。


 紫亜は鍛錬を終えた雛を見つめた。


「引導流は馴染んだようですね」


「うん」


「手加減に使うには、過ぎる力になってきてますね」


 雛は静かに頷く。


「日に日に精度は上がってるから、大丈夫」


 その時だった。


 紫亜のスマートフォンが鳴る。


「どうしたの? ジェームズ」


 少しだけ表情を引き締める。


「……そう」


「お伝えはするけど、期待しないように言っておいてちょうだい」


「ええ……また」


 通話を終える。


 雛が首を傾げた。


「ジェームズさん?」


「はい。雛様にお伝えしてほしいことがあると」


「なんて?」


「伊集院祥子さんが、雛様にお会いしたいそうです」


「それも、なるべく早く」


「何かあったのかな?」


「ジェームズからの話では、そこまでは……」


 雛は少し考える。


「そっか……紫亜さん」


「お着替えを済ませてください」


「わかった」



 夜の道路を一台のスポーツカーが走る。


 街明かりを抜け、山道へ向かう。


 助手席では雛が静かに窓の外を眺めていた。


「あまり遅くない時間には着きますから」


「ありがとう」


 紫亜は前を見据えたまま、小さく微笑んだ。



 寺院へ続く山道の入口。


「すぐ戻るから」


「お待ちしております」


 雛は軽く頷くと、一気に駆け出した。


 夜の山道を迷いなく走る。


 風を切り。


 石段を駆け上がり。


 ほどなくして寺院へ辿り着く。


 ちょうど山門を閉めようとしていた祥子と鉢合わせになった。


「え?」


 目を丸くする祥子。


「雛ーー!?」


「何か用なんだって?」


 祥子は呆然として腕時計を見る。


「いや、ジェームズさんに伝言頼んでから、3時間くらいしか経ってないけど?」


「なるべく早くって聞いたから来た」


 祥子は苦笑した。


「あはは……」


「とりあえず中入って」



 道場。


 二人きりになる。


 雛は単刀直入に尋ねた。


「急ぎの用って?」


「そこまで急いでくれなくてもよかったんだけどね」


 祥子は苦笑しながら話し始める。


「うん。この寺院って、ここだけじゃなく、分派も含めたら全国に16院あるんだけど」


「うん」


「年に1回、その16院で競う大会があるのよ」


「引導流の?」


「そう」


「参加資格は道場主か皆伝者」


「うちは毎年お父さんが出てるんだけど、お父さん怪我しちゃってね」


 雛は少しだけ目を細めた。


「陰謀の匂い?」


 祥子は慌てて首を振る。


「おっかないこと言わないでよ!?」


「違うの?」


「棚の修理してて脚立から落ちちゃったのよ……あはは……」


 雛は安心したように頷く。


「そっか」


 祥子は姿勢を正した。


「それでね。今年はうちから雛に出てもらおうかと思って」


「祥子ちゃん出ないの」


 祥子は顔を赤くした。


「……まだ……って……の」


「え?」


「私まだ皆伝もらってないのっ!」


「あー」


 祥子は照れくさそうに笑う。


「だから……」


「いいよ」


「え?」


「出る」


 祥子の表情が一気に明るくなる。


「ありがとう! 雛ー!」


 雛は静かに続けた。


「ひとつ聞いておくけど」


「何?」


「大会のルールって、厳密な引導流だけで闘わないとダメとか?」


「皆伝者は各々改良を加えてるみたいだから、大丈夫よ」


 雛はほっと息をつく。


「それならよかった」


 祥子が驚く。


「改良したの!?」


「もう私の引導流」


 祥子は苦笑した。


「あはは……」


「大会はいつ?」


「今度の日曜日」


「場所はうちの道場」


「主催だから棄権できなかったのよ」


「美玲連れてきていい?」


「秘密の大会って訳じゃないから、友達連れてきてもいいわよ」


「ありがとう」



 山門前。


「じゃあ日曜日」


「朝8時集合でお願い」


「前日から別荘に来とく」


「よろしくね!」


「またね」


 雛は山道を駆け下りていく。


 入口では紫亜が車の外で待っていた。


「おかえりなさいませ」


「ただいま」



 帰り道。


 静かな車内。


「今度の日曜日、大会に出る」


 紫亜は穏やかに頷く。


「引導流のですか?」


「うん」


「いい機会ですね」


 雛は窓の外を見ながら、小さく笑った。


「楽しみ……」


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