第64話 お手伝いさん≒メイド
校門まで歩く雛と美玲。
校門前では、紫亜と美玲の母が楽しそうに談笑していた。
「お母さん!」
「紫亜さん」
二人に気付いた美玲の母が笑顔を向ける。
「迎えに来てくれたのね」
紫亜も穏やかに頭を下げた。
「ありがとうございます」
美玲は不思議そうに二人を見比べる。
「お母さん、紫亜さん初対面よね?」
「うん。でも、あんたから特徴聞いてたから、すぐ分かったわ」
紫亜を見る。
「言ってた通り綺麗な人ねー!」
紫亜は微笑む。
「あら、お上手ですね」
雛が二人を見る。
「教室行こう」
「私達の絵、見てよ!」
四人は一年A組へ向かった。
◇
教室では展示された絵を見学する人達で賑わっていた。
美玲の母は娘の作品を見つける。
「雛ちゃん描いたのね。可愛く描けてるじゃない」
「えへへ」
少し照れる美玲。
一方。
紫亜は雛の作品の前で足を止める。
「雛様」
「ん」
「流石です。少しクオリティ下げてますね」
「その方がいいって言ったから」
そこへ美玲の母もやって来た。
雛の作品を見る。
「えっ?」
思わず立ち止まる。
「すごいでしょ!」
美玲が嬉しそうに言う。
「写真かと思ったわ」
雛は少し口を尖らせた。
「全然なのに……」
紫亜は小さく微笑む。
「最初に描いた物だったら、鑑定騒ぎでしたよ?」
「何か言った?」
美玲が首を傾げる。
「ううん」
美玲は笑顔になる。
「何か食べに行く?」
紫亜が口を開いた。
「四人で食べようと、お弁当を持ってきましたよ」
雛の表情が少し明るくなる。
「おお」
美玲の母は恐縮したように言う。
「わざわざすみません」
「じゃあ学食行こう!」
「持ち込みOKだし」
「うん」
◇
学食。
昼時ということもあり、多くの生徒や保護者で賑わっていた。
四人は空いていた席へ腰を下ろす。
紫亜は風呂敷包みをテーブルへ置いた。
ゆっくりと包みを開く。
現れたのは三段重ねの重箱だった。
「ええ?」
美玲が思わず声を上げる。
一段目。
色鮮やかな和食。
二段目。
ローストビーフやグラタンなどの洋食。
三段目。
海老チリや焼売などの中華。
蓋を開けた瞬間、食欲を誘う香りが広がる。
「プロの料理みたい……」
美玲の母が感嘆した。
「ありがとうございます」
紫亜は穏やかに微笑む。
周囲の学生や保護者達も思わず視線を向けていた。
「あれ手作り?」
「すごく美味しそう……」
そんな声まで聞こえてくる。
雛は重箱を見つめる。
「美味しそう」
「さあ、召し上がってくださいませ」
雛が手を合わせる。
「いただきます」
美玲と母も続く。
「いただきます」
料理を口に運ぶたびに笑顔が増えていく。
自然と会話も弾み、穏やかな昼食の時間が流れていった。
◇
昼食を終えた四人は再び文化祭を見て回る。
メイド喫茶の前で足を止めた。
「おかえりなさいませ、ご主人様ー!」
元気な声が響く。
紫亜は看板を見る。
「メイド喫茶ですね」
雛は少し驚いた。
「知ってるんだ?」
美玲が笑う。
「ここでお茶してく?」
美玲の母は照れ笑いした。
「なんだか気恥ずかしいんだけど……」
紫亜は微笑む。
「何事も経験ですよ」
「じゃあ、入ろう」
◇
席へ案内される四人。
「ご注文は?」
「紅茶」
「では、私も紅茶を」
「アイスコーヒー」
「私もアイスコーヒーで」
「かしこまりましたー!」
店員は厨房へ戻っていく。
四人は文化祭の話をしながら談笑していた。
しばらくして。
飲み物が運ばれてくる。
「お待たせしましたー!」
メイドは雛に気付き、目を丸くした。
「哀沢さんだ!」
「うん」
そして紫亜を見る。
「てことは、この人が哀沢さんちのメイドさん?」
「ううん」
「お手伝いさん兼、保護者」
「ええー?」
「何が違うの?」
美玲が眉をひそめる。
「ちょっとあんた……」
紫亜はそっと手を上げ、美玲を制した。
「紫亜さん」
雛が見る。
紫亜は穏やかに微笑んだ。
「メイドとお手伝いさん。たしかに似たようなものかもしれませんが……」
「よろしければ、厳密な違いをお教えいたしましょうか?」
その笑顔を見た瞬間。
メイドの背筋を悪寒が走った。
「い、いえ!」
「哀沢さん、ごめんね!」
慌てて頭を下げ、逃げるように持ち場へ戻っていく。
美玲の母だけは状況が分からず首を傾げた。
「では、いただきましょうか」
「そうね、いただきましょう」
◇
その後も四人は文化祭を楽しんだ。
射的では雛と紫亜が全弾命中し、景品を抱えることになる。
ボクシング部の前では、『但し、哀沢雛参加不可』の貼り紙を見て、美玲の母は驚き、紫亜は静かに頷いた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
「そろそろ私達、一旦教室に戻らなきゃ」
「終わるまで待ってようか?」
「ううん。片付けもあるし、先に帰ってて」
紫亜は雛へ微笑んだ。
「では雛様、私も先に帰ってますね」
「うん、来てくれてありがとう」
「当たり前ですよ」
二人は手を振る。
紫亜は美玲の母へ向き直る。
「神崎様、お宅までお送りしますよ」
「いいんですか? ありがとうございます」
車へ向かう二人を見送りながら、雛と美玲は静かに微笑んでいた。




