第63話 一般公開日
翌日。
文化祭2日目。
今日は一般公開日だった。
一般の来場者はチケット制のため、校内には生徒達の家族や知人の姿が多い。
各クラスの模擬店も昨日以上に賑わっていた。
一度教室へ集合してから自由行動となるため、雛と美玲も教室でホームルームを受けていた。
黒崎が教卓に立つ。
「今日は一般の方もいらっしゃるから、失礼のないようにな」
教室を見回す。
「終わったら、また教室に集合だぞ」
「はーい!」
元気な返事が返ってくる。
ホームルームが終わると、生徒達は一斉に教室を飛び出していった。
美玲も笑顔で立ち上がる。
「今日はどこ見る?」
「模擬店」
「昨日ほとんど食べたよ?」
「じゃあ、食べ物以外の模擬店」
美玲は笑う。
「雛お断りじゃなきゃいいけどねー」
雛は首を傾げた。
「紫亜さん、昼前に来るって言ってたから、来たら何か食べる」
「うちのお母さんも、それくらいに来るって言ってたよ」
「そっか」
二人は教室を出た。
◇
模擬店を見て回る。
射的。
輪投げ。
占い。
どの教室からも笑い声が聞こえてくる。
その途中。
ボクシング部の前を通りかかった。
「哀沢さん!」
慌てた様子で部長が駆け寄ってくる。
「はい」
「どうしたんですか?」
美玲が尋ねる。
部長は困ったように頭を掻いた。
「殴られ屋なんだけど、タチの悪い客が来てて……」
「え?」
「1回成功した後も続けて挑戦してて、今5回目なんだ」
リングの方を見る。
男が賞金を受け取りながら笑っていた。
「じゃあ、もう1回な!」
部員達は困り果てている。
「そんなー……!」
雛は男を見る。
「そうなんだ」
部長は両手を合わせた。
「哀沢さん、助けてくれないか!?」
美玲が雛を見る。
「どうする?」
「いいですよ」
部長は顔を輝かせた。
「本当に? 助かる!」
◇
リング。
男が雛を見る。
「ん?」
「交代」
部員達がざわついた。
「哀沢さん!?」
男は鼻で笑う。
「お姉ちゃんか。俺は女でも手加減しねぇぞ?」
「どうぞ」
部員がゴングを鳴らす。
男は軽くジャブを放つ。
雛は半歩だけ動いた。
拳は空を切る。
「このっ!」
今度は連打。
左右のフック。
ストレート。
アッパー。
全て避けられる。
10秒。
ゴング。
「時間です!」
部員が声を上げる。
「もう1回だ!」
男は100円を受付へ置く。
◇
2回目。
3回目。
5回目。
10回目。
挑戦を重ねるたびに、観客は増えていく。
「また避けた!」
「すげぇ!」
「一発も当たらねぇ!」
男の息は徐々に荒くなる。
額から汗が流れ落ちた。
それでも意地になって挑み続ける。
「まだだ!」
20回。
30回。
40回。
誰一人として、その結果を疑わなくなっていた。
そして。
50回目。
ゴング。
男は渾身の連打を放つ。
雛は最小限の動きだけで避け続ける。
10秒。
終了。
「時間です!」
部員の声が響いた。
男は肩で息をしていた。
「はぁ……はぁ……」
雛は変わらず立っている。
男は歯を食いしばった。
「俺は元プロだぞ」
「だから?」
男は悔しそうに笑う。
「今度は逆だ!」
「俺に当てられなかったら、売り上げ全部よこせ!」
「当てたら?」
「1発につき1万やるぜ!」
雛は首を傾げた。
「何発まで当てていいの?」
財布の中身を思い出した男は苦笑する。
「4発だ! だが、1発も当たらねぇよ!」
部長が一枚の紙を差し出した。
「一応、誓約書にサインしてください」
「しゃあねぇな」
男は乱暴に名前を書く。
雛は部員を見る。
「ゴング鳴らして」
カーン。
男は構えた。
「来いよ! 当てられると思っ──」
次の瞬間。
パパパパンッ!
4発。
一瞬だった。
男は言葉を失う。
「あ……あ……っ」
そのまま膝から崩れ落ちた。
周囲は静まり返る。
やがて。
大歓声が上がった。
男は震える手で財布から4万円を取り出す。
雛へ渡すと、何も言わず逃げるように立ち去った。
部員達が歓声を上げる。
「哀沢さんすごい!」
「助かりました!」
部長も深々と頭を下げた。
「本当にありがとう!」
雛は4万円を差し出す。
「はいこれ」
「哀沢さんがもらっていいよ?」
「模擬店の利益にしてください」
部長は苦笑した。
「ははっ……じゃあ、ありがたく!」
美玲が尋ねる。
「いいの?」
雛は小さく笑った。
「楽しかったから」
◇
二人は再び文化祭を見て回る。
メイド喫茶の前を通りかかる。
「おかえりなさいませ、ご主人様ー!」
元気な声が響く。
雛は首を傾げた。
「お手伝いさん?」
美玲は笑う。
「そういうコンセプトの喫茶店なのよ」
「へー」
「入ってみる?」
雛は時計を見る。
「そろそろ紫亜さん来るかも」
「もうそんな時間かー」
美玲は笑顔になる。
「校門まで迎えに行こうか」
「うん」




