第62話 肖像画
放課後。
教室には夕日が差し込んでいた。
文化祭まで、あと一週間。
教室のあちこちでは、絵の具や色鉛筆の話題で盛り上がっている。
美玲が雛の机へ近付いた。
「ねえねえ、雛」
「ん?」
「絵の提出まであと一週間だけど、どこまで描けてる?」
雛はあっさり答えた。
「もう描けてる」
「早っ!」
美玲は苦笑する。
「私はあと色だけなんだけど、その前に見てもらって、気に入るか確認しようと思って」
雛は首を横に振った。
「ううん」
「え?」
「美玲の好きなように描いて」
「見るのは当日の楽しみにしとく」
美玲は一瞬きょとんとしたあと、笑顔になった。
「ああ、そうだよね!」
「うん」
「じゃあ、私も楽しみにしとく!」
二人は笑い合った。
◇
帰り道。
夕暮れの住宅街を並んで歩く。
美玲が思い出したように尋ねる。
「文化祭、2日目は一般公開だけど、紫亜さん来るの?」
「楽しみって言ってた」
「うちもお母さん来るって」
「そっか」
二人は他愛のない話をしながら家路についた。
◇
文化祭当日。
校内は朝から文化祭一色だった。
廊下には色鮮やかな飾り付け。
教室からは笑い声。
各クラスの出し物も始まり、生徒達が楽しそうに校内を行き交っている。
雛達のクラスも、多くの生徒で賑わっていた。
壁一面には、様々な絵が展示されている。
水彩画。
鉛筆画。
風景。
動物。
人物。
それぞれの作品にはタイトルと作者名が添えられていた。
美玲は教室を見回す。
「みんな上手いね!」
「うん」
雛も静かに見て回る。
その時。
一枚の絵の前で足を止めた。
可愛いタッチで描かれた少女。
静かに微笑む雛だった。
タイトル。
『親友』
「見つかっちゃった!」
美玲が照れ笑いする。
少し不安そうに雛を見る。
「どうかな……?」
雛は絵を見つめる。
「かわいい」
美玲の表情が一気に明るくなった。
「そう? よかった!」
今度は美玲が雛の作品を探し始める。
「あ、雛のは――」
その時。
「何これ!?」
「誰だよ写真提出したの!?」
教室がざわついた。
美玲も声の方を見る。
「えー?」
そこには。
ひとりの少女。
いや。
写真としか思えない鉛筆画が飾られていた。
近付いて見ても。
鉛筆の線で描かれていることは分かる。
だが。
あまりにも精巧だった。
「雛!?」
美玲が振り返る。
雛は静かに頷いた。
「私の絵」
周囲の生徒達も集まってくる。
「哀沢さん!」
「写真じゃないのこれ!?」
美玲は絵へ近付いた。
「近くで見たら絵だって分かる」
雛は小さく尋ねる。
「どう?」
美玲はタイトルへ目を向けた。
『親友』
一瞬だけ目を丸くする。
そして。
満面の笑みになった。
「ありがとうね、雛!」
雛も少しだけ嬉しそうだった。
「ううん」
◇
二人は他のクラスも見て回る。
演劇。
写真部。
科学部。
どの教室も文化祭らしい賑わいだった。
その途中。
ボクシング部の模擬店が目に入る。
『殴られ屋』
一回100円。
10秒間で一発でも当てられたら1000円。
そんな貼り紙の下に、
もう一枚。
『但し、哀沢雛参加不可』
美玲は貼り紙を二度見した。
「やる前から出禁食らってる!?」
「えー?」
雛だけは納得していなかった。




