第61話 文化祭
トライアスロン大会の翌日から、中間テストは始まった。
三日間。
教室にはいつも以上に張り詰めた空気が流れていた。
教科が終わるたびに、生徒達は机へ突っ伏す。
「終わった……」
「数学難しすぎるだろ……」
「赤点だけは勘弁してくれ……」
そんな声が教室のあちこちから聞こえていた。
そして。
三日間のテスト期間を終え、雛以外の生徒達はぐったりしていた。
◇
テスト最終日の翌日。
ホームルーム。
黒崎が教卓を軽く叩く。
「来月の文化祭だが、うちのクラスは何をやるか決めるぞ」
その瞬間。
教室が一気に賑やかになった。
「メイド喫茶!」
「お化け屋敷!」
「脱出ゲーム!」
黒崎は苦笑する。
「調理が必要な出し物は避けてくれー」
さらに教室が騒がしくなる。
美玲が雛を見る。
「雛、何かやりたい事ないの?」
雛は少し考えた。
「文化祭って初めてだし、わかんない」
「あー、そうだよね」
「何するの?」
美玲は指を折りながら答える。
「模擬店とか、絵を描いて貼り出したりとか、研究発表したりとかかなー」
「ふーん……」
「あんまり興味ないでしょ?」
雛は素直に頷いた。
「うん」
黒崎が教室を見回す。
「他のクラスとか見て回りたいなら、模擬店はやめといた方がいいぞ」
生徒達は顔を見合わせた。
「どうする?」
「決まらないな……」
しばらくして。
黒崎はため息をつく。
「もう、絵の展示でいいだろ」
美玲が手を挙げる。
「何描くんですか?」
「風景でも人物でも、好きな題材でいいぞ」
教室中から声が飛んだ。
「投げやりだなー!」
黒崎は笑う。
「文化祭の三日前には集めるから、ちゃんと描いてこいよー」
◇
放課後。
二人は並んで歩いていた。
夕暮れの街。
帰宅する生徒達が行き交う。
「絵か……」
雛が小さく呟く。
「何描くつもり?」
美玲が尋ねる。
雛はじっと美玲を見る。
「美玲描きたい」
「私!?」
美玲は驚いた。
「紫亜さんの方がいいんじゃない?」
雛は首を横に振る。
「ううん、美玲がいい」
美玲は照れ笑いした。
「じゃあ、私も雛描く!」
二人は笑いながらスマートフォンを取り出す。
「はい、こっち向いて!」
お互いに写真を撮り合う。
撮れた写真を見て笑う。
「描けたら、提出前に見せ合おうね」
「わかった」
◇
帰宅した雛。
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
紫亜が迎える。
雛は自室へ荷物を置き、そのままリビングへ戻ってきた。
ソファへ腰を下ろす。
「紅茶でよろしいですか?」
「うん」
しばらくして。
二人は静かに紅茶を飲む。
雛が口を開いた。
「紫亜さん」
「はい」
「来月文化祭」
「出し物は何を?」
「絵を描いて貼り出すって」
「題材は決まってるのですか?」
「何でもいいって言われたから、美玲描くことにした。美玲は私を描くって」
紫亜は穏やかに微笑んだ。
「それはよろしいかと」
雛はスマートフォンを取り出す。
「これ」
画面には笑顔の美玲。
紫亜も画面を覗き込む。
「可愛い笑顔ですね」
雛は立ち上がった。
「部屋で描いてみる」
「道具は部屋に揃ってますので」
「うん」
◇
一時間後。
雛は三枚の絵を抱えてリビングへ戻ってきた。
「紫亜さん」
「はい」
「見て」
テーブルへ並べられる三枚。
水彩画。
油絵。
鉛筆画。
どれも同じ笑顔の美玲だった。
紫亜は静かに見つめる。
「大変お上手ですね」
「そう?」
「ただ……」
雛は首を傾げる。
「ん?」
「少しクオリティを落とした方が、高校生らしいかと」
「そうなの?」
「美玲さんも雛様を描くのですから、配慮した方がよろしいかと思いますよ」
雛は三枚を見比べる。
「そっか」
そこに描かれていたのは。
プロが描いたとしか思えない水彩画と油絵。
そして。
鉛筆画にいたっては、写真と見間違えるほど精巧な、美玲の姿だった。




