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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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55/102

第55話 仕上げ


 楸の特訓は連日続いた。


 放課後になればジムへ集まり。


 リングへ上がる。


 それが一ヶ月以上、毎日続いていた。


 防御。


 攻撃。


 そして対キング用の戦術。


 楸は一つずつ、自分のものへ変えていく。


 1ヶ月を過ぎた頃には、防御の課題はほぼマスターしていた。


 攻撃も、高山を相手に繰り返し続けた事で精度は着実に上がっている。


 その姿を毎日見ている雛も、概ね問題ないと判断していた。


 リングの中央。


 楸は汗を拭いながら雛を見る。


「どうだ? 哀沢」


「8割ってとこ」


 即答だった。


「あと1週間なんだが、何が足りない?」


「防御は大丈夫。攻撃も対キング用の動きは、ほぼ出来てる」


「じゃあ、残りの2割は?」


 雛は少しだけ考える。


「……決定力」


「決定力不足か?」


「楸先輩は、打撃と組み技どっちかと言えば組み技主体でしょ」


「ああ」


「キング相手に楸先輩が組み技を仕掛けられるチャンスは、たぶん1回」


 楸は苦笑する。


「厳しいな……」


「その1回で確実に極められる技が必要」


 リングの外で見ていた美玲が目を丸くした。


「そんな技あるの?」


 雛は高山を見る。


「高山君」


「わかった!」


 高山は慣れた様子でヘッドギアとプロテクターを着ける。


 リングへ上がる。


「好きに攻撃してきて」


 高山が一気に距離を詰めた。


 ジャブ。


 ローキック。


 ボディ。


 上下へ散らしながら攻め続ける。


 雛は静かに捌いていく。


 そして。


 ほんの一瞬だけ。


 顔面に隙を作った。


「もらった!」


 高山が渾身の右ストレートを打ち抜く。


 次の瞬間。


 高山はリングへ崩れ落ちていた。


「……え?」


 美玲が固まる。


 高山は気絶している。


「今のは……!?」


 楸も目を見開いた。


「手加減したから大丈夫」


「気絶してるんだけど!?」


「これをキングに使う時は、一呼吸で極めて」


「できるのか?」


「一呼吸で極めたら死ぬかも」


「おいおい……」


「キングなら死なないはず」


 楸は苦笑しながら頷く。


「動き自体はすぐ覚えられるが」


「あと1週間で一呼吸でできるようにして」


「わかった」


「コツは、最初の右手首の使い方」



 そこからの1週間。


 毎日3R。


 キングを想定した攻防を繰り返した。


 殺しの技。


 防御。


 見せ技。


 突破口。


 何度も同じ動きを身体へ叩き込む。


 最初は。


「今ので3回は死んでる」


 雛の評価は厳しかった。


 数日後。


「今ので1回」


 楸の反応は目に見えて速くなる。


 高山も毎日リングへ上がった。


 投げられ。


 極められ。


 受け役を繰り返す。


「もう勘弁してください……」


 リングへ大の字になる高山。


 美玲は苦笑する。


「高山君も頑張ってるね」


「試合終わったら焼肉奢ってもらいます!」


「それくらいしてもらいなさい!」


 ジムに笑いが広がる。


 そして。


 試合前日。


 最後の3R。


 楸は淀みなく動き続けた。


 キングの殺しの技。


 全て読み切る。


 対キング用の攻撃。


 迷いなく繋ぐ。


 最後。


 一呼吸。


 雛から教わった極め技が決まる。


 雛は静かに構えを解いた。


「これなら大丈夫」


 楸は息を吐く。


「ありがとう」


 雛は小さく頷いた。


「明日は勝って」



 試合当日。


 会場は超満員だった。


 前座の試合も大いに盛り上がる。


 関係者席には雛、美玲、高山の三人。


「いよいよ楸先輩の試合ね」


 美玲が胸の前で手を握る。


「緊張するなー」


 高山も落ち着かない様子だ。


「試合するのは楸先輩でしょ!」


 美玲が笑う。


 雛だけは静かだった。


「大丈夫」


 その一言だけ。


 リングアナがマイクを握る。


「挑戦者、楸優作!」


 クラシックの入場テーマが流れる。


 花道を歩く楸。


「今回もクラシックね」


「やっぱり生意気」


「もう言ってやるなよ」


 高山が苦笑する。


 楸がリングへ上がる。


 続いてリングアナが叫ぶ。


「チャンピオン、キング・ガルシア!」


 今度はジャズのメロディー。


 歓声の中をキングがゆっくり歩いてくる。


 リングへ上がる。


 その眼は真っ直ぐ雛を見ていた。


 雛は静かにキングと目を合わせる。


 そして。


 顎をわずかに動かし、楸を見るよう促した。


 キングは小さく笑う。


「どう仕上げたのか、見せてもらおうか……」


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