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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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第54話 特訓


 翌日の放課後。


 雛と美玲は、楸の待つジムへ向かっていた。


 もちろん高山も来ている。


 リングの上では楸が軽く身体を動かし、汗を流していた。


「試合の翌日なのに休まなくていいの?」


 雛が尋ねる。


 楸は肩を回しながら笑った。


「学校は休ませてもらったさ」


「ジムも休めばいいのに」


 美玲が呆れたように言う。


 楸はリングロープにもたれ掛かった。


「哀沢から聞きたいこともあったしな」


「そっか」


 短く返事をする雛。


 楸の表情が少し真剣になる。


「哀沢、チャンプと会ってどう思った?」


「今のままなら負ける」


 即答だった。


「哀沢さん!?」


 高山が思わず声を上げる。


 雛は続けた。


「今のままならの話」


 楸は静かに頷く。


「勝てる算段を立てられるって事か?」


「うん」


 雛は迷わずリングへ上がった。


 楸も後を追う。


 向かい合う二人。


「いい?」


 雛は昨日の試合を思い返しながら言った。


「昨日の挑戦者の動き、再現できる?」


「ある程度なら」


「打ってきて」


 楸が構える。


 昨日の挑戦者を思い浮かべながら踏み込んだ。


 鋭い打撃。


 重いローキック。


 組みも交えながら攻め込んでいく。


 雛はキング・ガルシアの動きを再現する。


 最小限の動き。


 無駄のない防御。


 そして。


 楸が打ち込もうとした、その瞬間。


 身体が止まる。


「……っ!」


 次の動きへ移れない。


 雛は構えを解く。


「もう一回」


 再び始まる。


 今度は別の攻防。


 しかし。


 また動きが止まる。


 三度。


 四度。


 攻防が続くたび、楸の動きは一瞬だけ止められた。


 高山も美玲も理由が分からない。


 楸だけが額に汗を浮かべていた。


 雛はリング中央へ戻る。


「わかった?」


 楸は息を整える。


「何かされたのは分かるが、何をされたのかは分からんな」


 雛は静かに答えた。


「殺しの技」


「何!?」


 高山と美玲が同時に声を上げる。


「軍隊格闘技をベースに、傭兵時代に使ってた殺しの技を混ぜてる」


 楸は昨日の試合を思い返す。


「反則ではないのか……?」


「相手の動きを止めるために、心臓や頸動脈、頚椎に死なない程度の打撃を加えてる」


 リングに静寂が流れる。


「……対抗策は?」


「それが来ることを読んで、ポイントをずらすの」


 楸は苦笑した。


「難易度高ぇな」


「試合までの2ヶ月、毎日キングの動きを見せるから、無意識でできるようになって」


 楸は腕を組む。


「昨日の試合で見せてない動きもあるだろ?」


「見せた動きも、見せてない動きもできる」


「どういうこと!?」


 高山が思わず叫ぶ。


 美玲はもう驚かなかった。


「雛だからよ」


 そういうものだと思い始めていた。


 雛は続ける。


「あとは攻撃」


「引導流か」


「連撃のバリエーションを増やすのは当然だけど、対キング用の攻撃も覚えるの」


「キング用?」


「キングは元傭兵。命のやり取りを経験してるから、命に関わる攻撃には敏感に対応する」


 楸は静かに耳を傾ける。


「だから、その攻撃を見せ技にして突破口を開くの」


「なるほどな……」


 雛はふぅっと息を吐いた。


「美玲」


「どうしたの?」


「喋りすぎて疲れた……」


 その場に座り込む雛。


 美玲は思わず前のめりになる。


「えぇっ!?」


 高山も苦笑した。


「そんなに説明したの初めてじゃない?」


「ちょっと休憩……」


 雛は小さく呟いた。


 楸はリングの上で考え込む。


「2ヶ月の間に最低でも防御は身につけなきゃな……」


 雛へ視線を向ける。


「哀沢、さっき言ってたキング用の攻撃、要点は分かったから、高山相手の自主練でもやれると思う」


「お手本くらいは見せるけど?」


「それはありがたいが、そこまでしてもらっていいのか?」


「キングに言ったから」


「何て?」


「チャンプが驚くくらいには仕上げておくわって」


 楸は頭を掻いた。


「責任重大だな……」


 雛は立ち上がる。


「構えて」


 楸が構える。


 今度はキングが持つ攻撃のバリエーション。


 打撃。


 組み。


 崩し。


 そして。


 随所に挟まれる殺しの技で楸の動きを時折り止める。


 そこから通常の打撃へ繋げる。


 倒すためではない。


 倒されるまでの流れを教えるためだった。


 楸は何度も動きを止められる。


「きついな……」


「今ので10回は死んでる」


 雛は淡々と言う。


「毎日3Rやるから、あとは攻撃の練習して」


「わかった!」


 楸は力強く頷いた。


 雛は高山を見る。


「次は攻撃。高山君いい?」


「もちろん!」


 高山がリングへ上がる。


「見てて」


 雛はなるべく楸が見える速度で動き始めた。


 命を狙うように見せる拳。


 急所へ伸びる蹴り。


 だが。


 その全てが見せ技。


 キングなら反応する。


 その反応を誘うための攻撃だった。


「ああ……」


 楸は目を離さない。


「一度見とく方がわかりやすいな」


 雛は高山と入れ替わる。


「次は受けてみて」


「OK」


 今度は楸へ向けて同じ動きを繰り返す。


 楸は一つひとつ身体で覚えていく。


 数分後。


 楸は小さく頷いた。


「急所への攻撃を全てフェイントにする訳か」


「傭兵時代の癖で、フェイントだと分かった後でも防ぐから」


 美玲はリングの外から苦笑する。


「こんなに喋ってる雛見たの、初めてかも……」


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