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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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第53話 傭兵


 美玲は雛の言葉に驚いたまま、リングを見つめていた。


「殺した事がある人が、リングに上がれるの!?」


 雛は答える代わりに、膝の上のパンフレットを指差した。


「パンフレット見てみて」


 美玲は慌ててページをめくる。


「あった!」


 選手紹介のページ。


 チャンピオン、キング・ガルシア。


 戦績、26戦全勝。


 年齢、35歳。


 そして経歴。


「元傭兵だって!」


「なるほど」


 雛は小さく頷く。


「ベース:軍隊格闘技だって」


「そうなんだ……」


 美玲はパンフレットから顔を上げる。


「見ただけで分かったの?」


「なんとなく」


 それ以上は聞かなかった。


 いや。


 聞いてはいけない。


 そんな気がした。


 リングでは試合が続いている。


 挑戦者は果敢に攻める。


 だが。


 キング・ガルシアは一切慌てない。


 最小限の動きで攻撃をかわし。


 確実に打ち返す。


 主導権は終始チャンピオンが握ったままだった。


 試合終了。


 勝者。


 キング・ガルシア。


 会場が大歓声に包まれる。


 ベルトを掲げるキング。


 しかし。


 その視線は歓声ではなく、一人の少女へ向いていた。


 雛。


 雛も静かにキングを見つめ返している。


 互いに何も言わない。


 ほんの数秒。


 それだけだった。


 キングは何かを感じ取ったように、小さく目を細めた。



 観客が帰り始めた頃。


 高山が小走りで戻ってきた。


「チャンピオン強かったな!」


「観てたの?」


 美玲が聞く。


「控え室のモニターで楸先輩とな」


 高山は雛を見る。


「哀沢さん、なんかチャンピオンと目が合ってなかった?」


「気のせい」


 美玲も慌てて頷く。


「うん、気のせいよね。帰ろう雛」


「うん」


 三人が歩き出そうとした、その時。


「すみません」


 後ろから落ち着いた声が掛かった。


 振り返る。


 スーツ姿の男が深々と頭を下げた。


「私、チャンピオン、キング・ガルシアのマネージャーのリオンと申します」


「チャンピオンのマネージャー?」


 高山が目を丸くする。


「なんで?」


 美玲も首を傾げる。


 リオンは真っ直ぐ雛を見る。


「そちらのお嬢様と、チャンプが是非お話しをされたいと申しておりまして」


「いいですよ」


「雛?」


 雛は美玲を見る。


「美玲、先に帰ってて」


「高山君、送ってあげて」


「わかった!」


 高山はすぐ頷く。


「神崎、行こう」


「あとで連絡してね!」


「うん」



 チャンピオンの控え室。


 キング・ガルシアは椅子に腰掛け、静かに待っていた。


 コンコン。


 ドアを叩く音。


「チャンプ、お連れしました」


「どうぞ」


 扉が開く。


 雛が入室した。


「ようこそ、お嬢さん」


「はじめましてチャンプ」


 キングは穏やかに微笑む。


「握手をしても?」


「うん」


 キングが手を伸ばす。


 握手。


 しかし。


 次の瞬間には自ら手を離していた。


 「驚いた……」


キングは無意識に呟いていた。


「初対面の相手の手首を極めようとしたのね?」


 キングは苦笑した。


「私が手を離さなければ、君は折っていたのだろう?」


 二人は微笑む。


 そのやり取りを見ていたリオンだけが青ざめていた。


「チャンプ、このお嬢さんは……?」


「恐らく私と同類だよ」


 雛は淡々と言う。


「やるの? いいけど……」


 キングの背筋へ寒気が走る。


 リオンは全身に悪寒を覚えた。


「いや」


 キングは静かに首を振る。


「君は楸優作の関係者なのだろう?」


「師匠……かな?」


 その答えにキングは笑う。


「そうか」


「君が相手なら楽しみなのだが……」


「だが?」


「楸優作では私の相手にはならない」


「試合までの期間は?」


「二ヶ月後を予定している」


「わかった」


「ん?」


「その頃には、チャンプが驚くくらいには仕上げておくわ」


 キングは嬉しそうに笑った。


「楽しみだ」


 雛は踵を返す。


「じゃあ」


「お嬢さん」


 キングが呼び止める。


「お名前は?」


「哀沢雛」


「楸優作に満足できなかった場合、君が相手をしてくれるのかな?」


「チャンプ!?」


 リオンが慌てる。


 雛は少しだけ考えた。


「やめといた方がいい」


「リングじゃないなら、やれるだろう?」


 雛は静かに答える。


「……死ぬから」


 キングの表情から笑みが消えた。


 リオンは立っているのがやっとだった。



 控え室を出る雛。


 出口へ向かう途中。


「雛!」


 楸達が走ってきた。


「帰ってなかったの?」


「置いて帰れるかよ!」


「大丈夫だった?」


「心配したよ……」


「大丈夫」


 楸は安堵したように笑う。


「チャンプと何話したんだ?」


「試合までに弟子を仕上げとくって」


「はは、お手柔らかに頼むぜ」


「死なないようにはしてあげる」


 楸は苦笑した。



 キングの控え室。


 リオンは額の汗を拭う。


「なんですか、あの少女は……」


 嫌な汗が止まらない。


 キングは静かに天井を見上げた。


「私にも分からんよ」


 少しだけ目を閉じる。


「同類だと思っていたんだが……」


 ゆっくり息を吐く。


「触れてはいけない物だったのかもしれない」


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