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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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52/102

第52話 翻弄


 クラシックの入場テーマが会場に流れる。


 静かな旋律とは対照的に、観客席からは大きな歓声が上がっていた。


 その中を、楸優作がゆっくりと花道を歩く。


 落ち着いた表情。


 余計な力みはない。


 リングへ上がると、青コーナーに立った。


 対戦相手も赤コーナーから姿を現す。


 空手で鍛え上げられた分厚い身体。


 腕も脚も太く、打撃の重さを物語っていた。


 リング中央。


 二人が向かい合う。


 互いに一歩も譲らない視線。


 レフェリーがルールを確認し、それぞれのコーナーへ戻る。


 セコンドがグローブへ軽く触れた。


「楸、どうだ?」


 楸は相手から目を離さない。


「いい体してますけど、怖さはないですね」


 セコンドは苦笑した。


 関係者席をちらりと見る。


「あの嬢ちゃんの方が怖いってか」


 楸も苦笑する。


「あいつとガチでは絶対やりたくないですから」


 その声は雛の耳には届いていた。


「む……」


 雛が小さく反応する。


「雛?」


「なんでもない」


 高山がリングを指差した。


「そろそろ始まるぞ!」


 会場が静まり返る。


 試合開始のゴングが鳴った。


 対戦相手が勢いよく飛び出す。


 楸は自然体のまま迎え撃つ。


 左へ回り込みながら放たれる右フック。


 ロシアンフック。


 体重を乗せた一撃だった。


 楸は半歩踏み込む。


 左肩で相手の拳を跳ね上げた。


 拳が空を切る。


 対戦相手はすぐ距離を取ろうと後ろへ跳ぶ。


 組み技を警戒していた。


 その後退へ楸が踏み込む。


 鳩尾へボディブロー。


 鈍い音が会場へ響いた。


 相手の身体がくの字に折れる。


 楸は逃がさない。


 拳。


 膝。


 蹴り。


 流れるように打撃を繋げていく。


 だが相手も打撃を得意とする選手だった。


 連撃の僅かな隙を突き、鋭い拳を差し込んでくる。


 楸は待っていた。


 拳が伸びる。


 その腕へ組み付き、身体を寄せる。


 一瞬だけ相手の動きが止まった。


 そこへ再び連撃。


 拳。


 膝。


 ローキック。


 後退。


 さらに追撃。


 相手は反撃する暇もなく下がり続ける。


 完全に楸のペースだった。


「楸先輩勝てそう!」


 美玲が思わず身を乗り出す。


「圧倒的だよ!」


 高山も興奮を隠せない。


「あれくらいは当然」


 雛は静かにリングを見つめたまま言う。


「厳しくない!?」


 美玲が思わず笑った。


 追い詰められた相手は、連撃を嫌って低く頭を下げる。


 組みに来た。


 その瞬間。


 楸の腕が首へ巻き付く。


 フロントチョークスリーパー。


 相手は必死にもがく。


 外れない。


 逃げられない。


 数秒後。


 楸の身体を叩いた。


 タップ。


 レフェリーが二人を引き離す。


 試合終了。


 歓声が一気に爆発した。



 リング上。


 勝者インタビューが始まる。


「楸選手、おめでとうございます!」


「ありがとうございます」


「相手は空手出身者でしたが、打撃対策は万全でしたね」


 楸は関係者席へ目を向ける。


「ええ、師匠が良かったので」


「師匠がいらっしゃるんですか?」


「ええ、まあ」


 雛は小さく鼻で笑う。


「ふふん」


 美玲が横を見る。


「ちょっと得意げ?」


 雛は答えない。


 少しだけ口元が緩んでいた。


「これでランキング1位。次はチャンピオンですね!」


「次も勝ちます」


「ありがとうございました! 楸選手でした!」



 リングを降りた楸へ三人が駆け寄る。


「おめでとうございます!」


「すごかったです!」


 楸は雛を見て笑った。


「どうだった師匠?」


「まあまあ」


「ちぇっ、厳しいな」


「今度もうちょっとマシな連撃教えてあげる」


「頼むわ!」


 二人は笑う。


 高山が楸を見る。


「俺、楸先輩の所に行ってくるけど、どうする?」


 美玲が雛を見る。


「雛、どうする?」


「タイトルマッチ観てく」


「そっか!」


 高山は頷いた。


「終わったら迎えに行くから、待っててくれ」


「わかった」


 高山は楸の後を追って控室へ向かった。


 リングではメインイベントの準備が始まっている。


「チャンピオン興味あるの?」


 美玲が尋ねる。


「勝った方と楸先輩になるから」


「なるほど! 師匠としては気になるわけね?」


「そんなとこ」



 会場の照明が少し落ちる。


 タイトルマッチ。


 挑戦者。


 そして。


 チャンピオンが姿を現した。


 割れんばかりの歓声。


 二人はリングへ上がり、それぞれのコーナーへ立つ。


 静まり返る会場。


 その時。


 チャンピオンと雛の視線が一瞬だけ交わった。


 雛は静かに呟く。


「チャンピオンが勝つ」


 美玲が驚く。


「始まる前よ!?」


 雛の視線はリングから動かない。


「あれは、殺した事がある目……」


 美玲は仰天した。


「なんで分かるのか聞いちゃダメなやつよね!?」


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