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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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第51話 楸優作の試合


 日曜日。


 朝から快晴だった。


 雛と美玲は試合会場へ向かって歩いていた。


 楸の試合は午後から。


 だが、雛が「せっかくだから第1試合から見たい」と言ったため、朝早くから家を出てきたのだった。


「プロの格闘技の試合観るなんて初めて!」


 美玲はどこか落ち着かない様子で辺りを見回す。


「私も」


 雛も大きな会場を見つめる。


「楽しみだねー」


 入口付近には、すでに多くの観客が集まっていた。


「たしか、高山君が出迎えてくれるはずなんだけど……」


 辺りを見回した、その時。


「神崎! 哀沢さん!」


 高山が大きく手を振っていた。


「高山君!」


 美玲と雛も手を振り返す。


「こっちだ!」


 高山は観客入口とは違う方向へ歩き出した。


「チケットは?」


 美玲が首を傾げる。


「楸先輩が関係者入口から入ってもらえって」


「おお……」


 雛が少しだけ目を丸くする。


「なんか得した気分ね!」



 控室。


 楸以外にも数名の選手が静かに試合開始を待っていた。


「楸先輩、連れてきました!」


「おう、ありがとうな」


 楸が笑う。


「こんにちはー」


「こんにちは」


 楸は雛を見る。


「高山から聞いたけど、第1試合から観たいんだって?」


「はい、特に雛が」


 美玲が苦笑する。


「頼むから、俺の試合までおとなしく観ててくれよ?」


「大丈夫」


 楸は安心したように笑った。


「俺の試合は午後の2試合目だから、高山と一緒に解説してもらいながら観ててくれ」


「任せてくれ!」


「よろしくね!」


「わかった」



 関係者席。


 リングサイドだけあって、選手の息遣いまで聞こえそうな距離だった。


「結構広いね!」


「うん」


 雛は会場全体を見回す。


「リングサイドだから試合もよく見えるよ」


 高山はパンフレットを差し出した。


「あ、これ」


「ありがとう!」


 二人はパンフレットを開く。


「もうすぐ第1試合始まるね」


「第1試合は2人共デビュー戦みたいだよ」


 リングへ上がる二人を見つめる雛。


「2人共細い」


「体格より試合内容でしょ」


 ゴングが鳴る。


 一人は打撃主体。


 もう一人は組み技主体。


「どっちが勝つかな?」


「俺の予想は打撃主体の選手かなー」


「雛は?」


「組み技の人が勝つと思う」


「そうなの?」


「組み技の人の打撃の捌き方が上手い」


 試合は一進一退。


 だが終盤。


 組み技主体の選手が一本奪い、そのまま勝利した。


「雛の言った通りだ!」


「あちゃー……」


 高山が頭を掻く。


 その時だった。


「たまたま当たっただけで、素人がうるせーよ!」


「そうだぞ!」


 二列後ろから野次が飛ぶ。


 高山が振り返る。


「なんだアイツら……」


「なんか文句あんのか!」


 さらに声が飛ぶ。


 立ち上がろうとする高山を、雛が静かに手で制した。


 立ち上がる。


 ゆっくり振り返る。


「文句あんのか? でっかいねえちゃん!?」


 雛は静かに口を開く。


「うるさい……」


 静かな声だった。


 だが、その場の空気を一瞬で変えるには十分だった。


 二人の男。


 そして、その周囲にいた観客まで一斉に悪寒が走る。


「す、すまなかった……」


「おとなしく観るよ」


「そっか……」


 雛は前を向き、静かに座った。


「雛……」


「静かになった」


 高山は苦笑する。


「ごめんな。哀沢さん」


「大丈夫」


 その後。


 午前中の関係者席は、雛達以外誰も一言発する事なく、試合を観戦していた。



 休憩を挟み、午後の試合が始まる。


 三人は会場内の売店で昼食を済ませ、再び関係者席へ戻ってきた。


 第1試合。


 午前とは違い、互いに経験豊富な選手同士。


 打撃。


 組み技。


 攻防が目まぐるしく入れ替わる。


「どっちが勝つ?」


 美玲が小声で聞く。


 雛はリングを見つめたまま答えた。


「こっち」


 指差したのは青コーナーの選手だった。


 試合は終盤まで競った。


 だが最後は雛が予想した選手が判定勝ちを収める。


「また当たった!」


 美玲が驚く。


 高山も苦笑した。


「見る目ありすぎだろ……」


 リングアナウンサーの声が会場へ響き渡る。


「続きまして、本日のセミファイナル!」


 観客席から大きな歓声が上がる。


 高山が立ち上がった。


「次は楸先輩の試合だ!」


「うん」


 雛も静かに立ち上がる。


 まず相手選手が紹介される。


 ロック調の入場テーマ。


 観客の歓声がさらに大きくなる。


 続いて。


 クラシックが流れ始めた。


「楸先輩、入場テーマ、クラシックなんだー!」


「なんか生意気」


「哀沢!?」


 高山が思わず振り返る。


 そんな声も知りもせず。


 楸優作が静かに花道を歩き始めた。


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