第48話 対策
放課後。
雛と美玲、そして楸はジムへ向かって歩いていた。
「付き合わせて悪ぃな」
楸が頭を掻く。
「大丈夫」
雛は短く答えた。
「高山君にも言われてたんで」
美玲が笑う。
楸は苦笑した。
「あいつ何か余計なこと言ってなかったか?」
「楸先輩の試合が近いとしか聞いてませんけど?」
「試合するんだ……」
雛が楸を見る。
「ああ。やっと対戦相手が決まってな」
「どんな相手?」
「フルコン系の空手出身者でな、寝技はそうでもなさそうなんだが、打撃が厄介だ」
美玲は納得したように頷く。
「あー……だから高山君、雛にジムに来てほしいって言ってたんだ!」
「スパーリング相手?」
「あいつは哀沢の打撃でボコられたから、ちょうどいいと思ったんだろ」
「短絡的だわー……」
楸は肩を竦める。
「俺もそう思う」
◇
ジムへ到着する。
高山はサンドバッグを叩いていた。
激しい打撃音がジムへ響く。
楸達に気付くと、すぐ駆け寄ってきた。
「楸先輩、お疲れ様です!」
雛を見る。
「哀沢さんもよく来てくれた!」
「私もいるんだけどー?」
「わかってるって!」
高山は慌てて笑った。
◇
休憩スペース。
四人は椅子へ腰掛ける。
「楸先輩から話は聞いてるかもだけど」
「次の対戦相手?」
高山は頷いた。
「そう」
美玲は腕を組む。
「雛をスパーリング相手にしても参考にならないと思うけど?」
「その通りだ」
楸も頷く。
「高山、お前が身をもって分かってるんじゃないのか?」
高山は苦笑した。
「自分は何の抵抗もできませんでしたけど、楸先輩なら何か突破口を見い出せるんじゃないかと」
「引いては次の対戦相手対策に繋がるんじゃないかと思ったんです」
楸は腕を組んだ。
「ふむ……」
美玲が雛を見る。
「雛が前と同じだと思っちゃダメよ?」
「それは……?」
「免許皆伝になった」
楸は驚いた。
「引導流のか?」
「うん」
美玲は苦笑する。
「夏休みの間に免許皆伝証もらったみたいです」
楸は笑みを浮かべた。
「受けてみたいな」
雛を見る。
「立ち合ってもらっていいか?」
「いいよ」
◇
リング。
二人は向かい合う。
雛はオープンフィンガーグローブを着ける。
楸はヘッドギアに加え、胸や腹部まで覆うフルプロテクターを装着していた。
その姿を見て高山が苦笑する。
「完全武装ですね……」
楸も笑う。
「連撃の体系を見るだけで大怪我できねーからな」
雛は静かに構えた。
「大丈夫」
「3分な」
リングサイドでは高山と美玲が固唾を呑んで見守る。
ゴングが鳴った。
楸はすぐには動かない。
(様子見で打たせてみるか……?)
次の瞬間。
雛が音もなく間合いへ入る。
(来る……え!?)
気付いた時には拳が顔面へ届いていた。
(これがボクシング部で聞いたパンチか……って、不味い!)
反撃しようと腕を動かす。
その時にはもう遅かった。
引導流の連撃が始まる。
鳩尾へ拳。
身体が折れようとした瞬間、脇腹へ蹴り。
崩れた体勢が無理やり起こされる。
顎へ掌底。
仰け反った身体へ膝蹴り。
胸へ拳。
前へ倒れかけた身体を押し返す。
肘打ち。
脇腹への蹴り。
腹部への突き。
崩れれば、その崩れた先へ。
倒れそうになれば、倒れない位置へ。
次の打撃が寸分の狂いもなく繋がっていく。
楸は立ったまま攻撃を受け続けていた。
ヘッドギア越しに頭が揺れる。
プロテクター越しでも衝撃は重い。
(どうやって反撃する……)
楸は雛の動きを目で追う。
拳。
掌。
肘。
膝。
蹴り。
あらゆる打撃が一つの流れとなって襲い続ける。
(やはり息継ぎの瞬間に割り込むしかないか?)
楸は雛の呼吸だけを見続けた。
だが。
息継ぎがない。
一分。
二分。
三分。
終了のゴングが鳴る。
そこで雛は最後の一撃を寸前で止める。
静かに拳を下ろした。
楸は深く息を吐いた。
終了のゴングが鳴るまでの3分間、雛の連撃が止まることはなかった。




