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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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第47話 没落


 翌朝。


 夏休み明けとは思えないほど、教室は静かだった。


 昨日まで聞こえていた島原達の笑い声もない。


 雛はいつも通り教室へ入る。


 美玲が笑顔で手を振った。


「おはよう雛!」


「おはよう」


 席に座る雛。


 美玲は少しだけ身を乗り出す。


「昨日、大丈夫だった?」


「うん、大丈夫」


 その一言で美玲は安心したように笑う。


「よかったー」


 その時だった。


 島原達がゆっくり歩いて来る。


 昨日までの自信はない。


 顔色も悪い。


 島原の声は震えていた。


「哀沢さん」


「何?」


「あなた、何故普通に登校してるの?」


 雛は首を傾げる。


「意味が分からない」


 美玲が二人を見比べた。


「島原さん、何かしたの?」


「失礼な! 何もしてないわよ!」


「そうよ! そうよ!」


 取り巻き達も慌てて続く。


 美玲は首を傾げた。


「何もしてないなら、そんなこと聞かないよね?」


 島原は一瞬言葉に詰まる。


「昨日パトカーが来た事を教えてあげたでしょ!」


「あれは関係なかった」


「え……?」


「話は終わり?」


「え、ええ……」


 島原達は顔を見合わせる。


 そんなはずはない。


 昨日のあの状況で何も起きていないなど信じられなかった。


 その時だった。


 教室の扉が勢いよく開く。


 黒崎が早足で入ってきた。


「島原、すぐ家に帰れ!」


 教室中の視線が島原へ集まる。


「えっ?」


「お父さんが逮捕されたそうだ」


 教室が静まり返った。


「なんで!?」


「秘書の方が迎えに来てるから、詳しくは秘書の方に聞いてくれ」


「わかりました……」


 島原は震える手で鞄を持つ。


 取り巻き達が不安そうに声を掛けた。


「島原さん……」


 島原は無理に笑顔を作る。


「大丈夫よ。また明日ね!」


 そう言い残し、教室を後にした。


 誰も言葉を発しない。


 美玲がぽつりと呟く。


「お父さんが逮捕って、何したんだろ?」


 雛は少し考えた。


「……脱税?」


 美玲は思わず笑った。


「予想がリアルだわ!?」


 張り詰めた空気が少しだけ和らいだ。



 放課後。


 帰る準備を終えた雛と美玲。


 教室を出ようとしたところで、島原の取り巻き達が近付いてきた。


 朝とは違う。


 三人とも俯いている。


「哀沢さん」


「まだ何か用?」


「ごめんね……」


「私たち、島原さんに逆らえなかったから」


「よかったら、これから仲良くしてくれる?」


 雛は三人を見た。


 静かな視線。


 三人は目を逸らす。


「もういい」


「え?」


「友達を悪く言う人と友達にはなれない」


「さよなら」


 雛は歩き出す。


「雛、待ってよー」


 美玲が慌てて追い掛けた。


 校門へ向かう。


「帰りにどっか行く?」


「高山君が、またジムに来てほしいって言ってたよ」


「連絡先交換したんだ?」


「花火大会の時にね」


「そっか」


「そんなんじゃないからね!」


 雛は少しだけ笑う。


「わかってる」


「もー!」


 二人の笑い声は夕暮れの校庭へ溶けていった。



 帰宅した雛。


「ただいま」


「おかえりなさい」


 紫亜が笑顔で迎える。


 部屋には夕飯の良い香りが漂っていた。


「美玲と高山君が連絡先交換してた」


「青春ですね」


「そうなの?」


「思春期というものです」


「そっか」


 雛は納得したように頷く。


 少し考えてから口を開いた。


「他に何か変わったことは?」


 紫亜が尋ねる。


「クラスの子のお父さんが逮捕されたみたい」


 紫亜は一瞬だけ目を伏せた。


「そうですか……」


 それ以上は何も聞かなかった。



 翌朝。


 1年A組。


 ホームルーム前の教室は昨日以上に騒がしかった。


「本当に逮捕されたらしいよ」


「ニュースにも出てた」


「島原さん今日休み?」


 そんな声が飛び交う。


 教室の隅では島原の取り巻き達が遠巻きに雛を見ていた。


 近付こうとはしない。


 やがて黒崎が教室へ入ってくる。


「出席取る前にみんなに知らせがある」


 教室が静まる。


「島原が昨日付けで退学した」


「えーーー!?」


 教室中がどよめいた。


「詳しい事は先生も知らん」


「仲が良かった者は個人で連絡取ってくれ」


 取り巻き達は愕然としていた。


 昨日。


 美玲が言った言葉を思い出す。


『たぶん、思ってるような結果にはならないと思うよ』


 その後、島原グループは誰一人、雛へ近付こうとはしなかった。


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