第46話 実力
翌日の夜。
夕食を囲む雛と紫亜。
「紫亜さん」
「はい」
「明日、実力テストがある」
「そうなのですね」
「全国順位も出るって」
紫亜は優しく微笑んだ。
「雛様の実力を全国に知らしめるのですね」
「めんどくせぇ」
父親そっくりの口調。
紫亜は思わず口元を押さえた。
「ああ……久々……」
雛はニヤリと笑う。
「雛様なら何も問題ないでしょうね」
「昨日、クラスの子達に勉強教えてって言われた」
「教えて差し上げるのですか」
「ううん、美玲馬鹿にしたから」
紫亜は静かに頷く。
「そうですか……」
◇
島原家。
「調査はどこまで済んだ?」
島原父が秘書へ尋ねる。
「ある程度は」
「報告しろ」
秘書は資料を開いた。
「哀沢雛。保護者とふたり暮らし。学力は学年1位、身体能力もオリンピック級」
「高校入学を期にこの街へ引っ越してきましたが、それ以前の経歴は判明しません」
「判明しない?」
「はい。様々な調査機関を使いましたが、判明しませんでした」
島原父は眉をひそめる。
「保護者とやらは?」
「紫亜・ウエストガーデン、35歳。資産家のようですが、その資産、背後関係共に謎に包まれています」
「それを解明するのが調査だろうが」
「申し訳ありません」
島原父は舌打ちした。
「会社でも持っていれば乗っ取ってやるんだが……」
携帯電話を取り出す。
「もしもし、副署長ですか? お久しぶりです」
「おお、島原さん」
「またゴルフでもいかがですかな?」
「いいですな。楽しみにしてますよ。ところで、何か御用が?」
「大した用ではないのですが、紫亜・ウエストガーデンという資産家はご存知ですかな?」
「その人物が何か?」
「いや、私の所に入ってきた情報によると、脱税や賄賂の噂がありましてな」
「ほほう……10年てところですかな」
「十分でしょう」
「では……」
「朗報をお待ちしてますよ」
◇
翌朝。
実力テスト当日。
雛は仏壇へ手を合わせる。
「いってきます」
「お気をつけて」
「うん」
玄関を出る雛。
紫亜はその背中を見送る。
一台のパトカーが家の前へ近づいてきた。
「あら……」
◇
華薗学園。
実力テスト終了のチャイムが鳴る。
「終わったー!」
美玲が机へ突っ伏した。
「どうだった?」
「思ってたよりできたよ!」
「よかった」
そこへ島原達が歩いてくる。
「哀沢さん」
「何?」
「えらく余裕ぶった顔してるけど、大丈夫なの?」
「雛がテストくらいで苦労しないわよ」
美玲が言い返す。
島原は口元を歪めた。
「なんか、御自宅にパトカーが来たらしいわよ?」
「ん?」
「私も人から聞いた話なので、よくは知らないけど……」
「あなたの保護者、何かしたんじゃないの?」
嘲るように笑う。
「うるさい……」
雛が島原達を睨む。
島原達の身体が震えた。
「そ、そんなに気になるなら、家に帰って確かめてみればいいでしょ」
「美玲、先帰るね」
「気をつけてね!」
雛は走り出す。
島原は美玲へ向き直る。
「神崎さんも、付き合う相手は考えた方がいいかもね?」
美玲は静かに笑った。
「たぶん、思ってるような結果にはならないと思うよ」
「そうかしら」
島原はニヤリと笑った。
◇
自宅前。
雛は息を切らしながら帰ってきた。
玄関を開ける。
リビングから紫亜が顔を出した。
「雛様」
「紫亜さん!」
「はい」
「大丈夫なの?」
「何がでしょう?」
「うちにパトカーが来たって」
紫亜は穏やかに微笑む。
「ああ、この辺りで最近空き巣が多いとの事で、注意喚起にいらっしゃっただけですよ」
「……そっか」
「何も心配いりません」
「何も……」
◇
島原父の携帯電話が鳴る。
「副署長、どうなりましたか?」
受話器の向こうから震えた声が聞こえる。
「島原さん、あなたとの縁もこれまでのようだ」
「え?」
「私は北の過疎地へ転勤になった」
「どういう事でしょう?」
「もうこれ以上話すことはない。さようなら」
通話が切れる。
「何だ……何が起きた?」
その時。
今度は秘書の携帯電話が鳴った。
「私だ。何!? 間違いないのか?」
「どうした?」
秘書は青ざめていた。
「島原グループの株の60%が買い取られました」
「なんだと!?」
「どこの企業だ?」
「様々な企業が関わっているようですが、糸を引いている者は分からないと……」
「馬鹿な……!」
「次の株主総会で社長の退任を要求するそうです」
「く、くっそーー!!」
◇
哀沢家。
紫亜は夕食の支度を始めていた。
「雛様、夕飯は何がよろしいですか?」
雛は少し考える。
「んー……肉」
「かしこまりました」
紫亜は静かに家を出る。
歩きながら徐ろにスマートフォンを取り出した。
「ええ、わかったわ」
穏やかな声。
「ええ。その方が雛様の平穏な学園生活のためにも良いでしょう」
電話を切る。
紫亜は小さく微笑み、そのまま歩き出した。




