第43話 奥義
雛の連撃は止まらなかった。
師範代は高山と違い、まだ意識を保っている。
だからこそ理解していた。
反撃できない。
引導流の連撃。
次から次へと繋がる打撃。
区切りがない。
反撃の瞬間が見当たらない。
(どこかで必ず息継ぎをする瞬間があるはず……)
師範代は必死に探す。
だが、ない。
雛は呼吸を乱すことなく連撃を重ねていく。
「いやいや!」
祥子が叫んだ。
「私でもそこまで息継ぎ無しの連撃できないわよ!?」
門弟達も唖然としていた。
一分。
二分。
連撃は終わらない。
師範代は自分の意識が遠くなるのを感じていた。
不意に雛の連撃が止まる。
師範代は立っている。
だが、意識は朦朧としていた。
まともに動ける状態ではない。
雛は静かに構えた。
引導流の独特な構え。
祥子の顔色が変わる。
「それって……!?」
知っている。
知っているからこそ焦る。
それは祥子がかつて途中で解除した引導流の奥義。
雛はそれを放とうとしていた。
「そこまで!」
道場の奥から声が響いた。
雛の動きが止まる。
全員が振り返った。
奥の扉が開いている。
そこに立っていたのは一人の男性だった。
「お父さん」
祥子が呟く。
「道場では先生と呼びなさい」
落ち着いた声。
門弟達が一斉に頭を下げた。
「先生!」
雛は首を傾げる。
「誰?」
「引導流の道場主」
祥子が答えた。
「私の父よ」
道場主は雛を見る。
「凄まじい子だな……」
「それより雛!」
祥子が詰め寄る。
「あんたさっき何しようとしたの!?」
「……奥義?」
「いや、私途中で止めたし、構えしか見てないよね?」
「うん」
「じゃあなんで!?」
雛は少し考えた。
「あの構えから放てる、死に直結する打撃を想定したら解った」
「えーー……?」
祥子は頭を抱えた。
「間違ってた?」
雛は聞く。
道場主が答えた。
「最後まで見る前に止めたが、間違いなく奥義『雷神』だろうな」
「ほら」
「ほらじゃないのよ!」
祥子が叫ぶ。
「想定で奥義身に付けないでよ!」
「まだ合ってるかわかんないでしょ」
「死人が出てからじゃ遅いのよ!」
◇
「誰か師範代を医務室に」
道場主が言う。
「はい!」
門弟達が慌てて駆け寄った。
その様子を見ながら、雛は聞いた。
「次は誰?」
「もういいでしょ……」
祥子が疲れた顔で答える。
「皆伝くれる?」
道場主は少し笑った。
「私と手合わせしてみようか」
「お父さん!?」
「わかった」
雛は頷いた。
◇
二人は距離を取る。
静寂が道場を包む。
「引導流だけで闘えばいい?」
雛が聞いた。
「皆伝が欲しいならそうだな」
「……わかった」
同時に踏み込む。
互いに引導流。
互いに次の手が読める。
突きが放たれる。
避ける。
蹴りが飛ぶ。
受け流す。
反撃。
さらに対応する。
攻防は続く。
だが決定打にならない。
同じ流派だからこそ。
互いの手を知っているからこそ。
「やはり怖いな……」
道場主が呟いた。
「当たらない」
雛も呟く。
◇
二人が同時に構える。
雷神。
引導流最大奥義。
祥子が息を呑んだ。
同時に放たれる。
だが。
当たる瞬間、雛の身体が流れるように動いた。
雷神をいなす。
勢いを利用する。
そして投げ。
道場主の身体が畳へ転がった。
静寂。
道場主はゆっくり立ち上がる。
「何故、最後まで撃たなかった?」
雛は答えた。
「殺す気で放ってない奥義に、奥義で返す訳にはいかないから」
道場主の表情が変わる。
「ふむ……」
「殺し合う気なら、合わせるけど……」
悪寒。
道場主の背中を冷たいものが走った。
祥子も同じだった。
「雛……?」
門弟達の中には、その圧に耐えきれず気絶する者までいた。
◇
「よかろう!」
道場主が声を上げる。
祥子が目を丸くした。
「え?」
「君の名前は?」
「哀沢雛」
道場主は大きく頷く。
「哀沢雛」
「免許皆伝を与える!」
道場内がざわついた。
雛は少しだけ笑った。
「やった」
◇
その後。
道場主の部屋。
三人でお茶を飲んでいた。
「君はまだまだ見せてない技があるね?」
道場主が聞く。
「今日は引導流しか使ってない」
雛は答えた。
「元々は何流なの?」
祥子が興味津々で聞く。
雛は少し考える。
「……お父さんとおじさん流?」
「何それ……?」
祥子が呆れる。
道場主は笑った。
「良ければまた来て、技術交流させてくれ」
「お父さん?」
「引導流も進化する時かもしれん」
「いいけど」
「ありがとう」
道場主は頭を下げた。
雛は首を傾げた。
「使うと死んじゃうから、あまり教えられないかも……?」
「は、はは……」
道場主の笑顔が引きつる。
祥子は深いため息を吐いた。
「やっぱりあんた、おっかないわ……」




