第41話 夏休みあるある
夏休みも残り一週間となった。
リビングのソファに座りながら、雛は考えていた。
残り少なくなった夏休みをどう過ごすか。
特に予定はない。
修行もできる。
遊びにも行ける。
そんな事を考えていると、スマートフォンが鳴った。
美玲からだった。
「もしもし」
『雛、夏休みの宿題って、もう終わってる?』
「終わってる」
『いつ頃終わったの?』
「初日に」
『早すぎない!?』
電話の向こうで美玲が叫ぶ。
雛は首を傾げた。
「やれる時にやらないと、やれなくなった時に責任を果たせないから」
『夏休みの宿題って任務だったっけ!?』
「違うの?」
『ニュアンスは違うけど、やらなきゃいけないのは確かね』
「よかった」
少し間が空く。
『お願い! 宿題手伝って!』
「どれくらい?」
『数学と英語が壊滅的。残りは自分でなんとかするから!』
「じゃあ、うち来る?」
『ありがとう! 助かる!』
電話の向こうで安堵の声が聞こえた。
『じゃあ、明日行くね!』
「わかった」
◇
電話を切る。
そのままリビングにいた紫亜へ視線を向けた。
「紫亜さん」
「はい」
「明日、美玲がうち来る」
「遊びにですか?」
「宿題手伝ってって」
紫亜は少し考えた。
「サボりがちな学生の、夏休みあるあるですね」
「そうなの?」
「雛様には無縁かと思いますけど」
雛は首を傾げた。
よく分からなかった。
◇
翌日。
インターホンが鳴った。
「おはようございまーす!」
元気な声。
美玲だった。
「いらっしゃい」
玄関を開ける。
「ようこそ美玲さん」
紫亜も笑顔で迎えた。
「これ、お母さんが持って行けって」
美玲は菓子折りを差し出す。
「ありがとう」
「わざわざありがとうございます」
紫亜が受け取った。
「私の部屋でやる?」
「うん!」
◇
雛の部屋。
必要最低限の家具しかない。
机。
本棚。
ベッド。
それだけ。
美玲は部屋を見回した。
「なんか予想通りの部屋ね……」
その視線が壁で止まる。
「て、師範代の賞状貼ってるんだ!?」
思わず吹き出した。
引導流名誉師範代。
しっかり額縁に入っている。
「次は皆伝もらう」
「意外と気に入ってるのね……」
美玲は苦笑した。
◇
美玲は数学の課題を取り出した。
「まだ三割くらいしかやってなくて……」
雛は解答済みの部分を見る。
しばらく眺めた。
「おお……」
「ん?」
「全部合ってる」
「マジで!?」
美玲が目を見開いた。
「期末テスト前の勉強会が効いてる」
「たしかに、あれから学力上がった気がするもん」
「じゃあ、見てるから、分からない所だけ聞いて」
「うん!」
◇
美玲は問題を解き始めた。
分からない所が出る。
聞く。
雛が教える。
また解く。
また聞く。
そんな時間が続いた。
昼食を挟んだ後も勉強は続く。
数学が終わる。
今度は英語。
時折り雛が解き方を説明する。
美玲は真剣だった。
◇
コンコン。
ドアがノックされた。
「紫亜さん?」
雛が扉を開く。
紫亜が入ってきた。
トレイには紅茶。
そして美玲が持ってきた洋菓子。
「ひと息着いてはいかがですか?」
「ありがとうございます!」
美玲が嬉しそうに礼を言う。
「ありがとう」
雛も受け取った。
◇
その後も勉強は続いた。
英語も順調に進む。
気が付けば夕方だった。
「夕飯食べてく?」
雛が聞く。
「お母さんに夕飯までに帰るって言ってたから、今日は帰るね」
「そっか」
「帰って残りの宿題もやらなきゃいけないし!」
「頑張って」
美玲は笑った。
「ありがとう!」
玄関へ向かう。
「またいらっしゃってくださいね」
紫亜が微笑む。
「ありがとうございます!」
美玲は頭を下げた。
「またね」
「たぶん、次会えるのは新学期だわ」
苦笑しながら手を振る。
◇
見送った後。
リビング。
「明日から美玲さんは忙しいみたいですね」
紫亜がお茶を飲みながら言った。
「それなら紫亜さんにお願いがある」
「何でしょう?」
「別荘まで乗せてって」
紫亜は微笑んだ。
「もちろんです」
「皆伝もらいに行ってくる」
「あらあら」
紫亜は楽しそうに頷く。
残り少ない夏休み。
雛の次の予定は決まったらしい。




