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HINA-死神の系譜-  作者: 竜堂さくら


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第37話 試し打ち


 夕方。


 雛のスマホが鳴った。


 画面を見ると、楸からだった。


「もしもし」


『よう』


 楸の声が聞こえる。


『突然だが明日時間あるか?』


 雛は少し考えた。


「美玲と会うくらいかな」


『俺の後輩でプロ志望の奴がいるんだが、哀沢に会わせろってうるせぇんだわ』


「なんで?」


『たとえスパーでも、俺が負けたのが納得いかないんだと』


「闘いたいってこと?」


『そうは言ってないが、ぶっちゃけそうなんだろうな』


 雛は少し考えた。


「自分が勝てない先輩が負けたのに、自分は勝てると思ってるの?」


『正論ぶつけてくるなよ……』


 楸がため息を吐く。


「めんどくさい」


『一回会ってくれるだけでいいから! 頼むわ!』


「午後からなら」


『全然OK! よろしくな!』


 電話が切れた。



 夕食の時間。


「紫亜さん」


「はい」


「明日、スパーリングするかも」


 紫亜は食事の手を止めた。


「引導流を使ってみる良い機会ですね」


「いいかも」


 雛は頷く。


「でも、力加減は必要ですよ?」


 雛は少し考えた。


「……死ななければいいよね?」


「十分です」


 話はまとまった。



 翌朝。


 駅前。


 美玲が手を振りながら駆け寄ってくる。


「お待たせー!」


「美玲、ちょっと付き合ってほしい所がある」


「どこ?」


 雛は少し考えた。


「……て、訳で、楸先輩のジム」


「嫌な予感しかしないんだけど!?」



 楸の所属ジム。


 リングの近くで楸が手を振った。


「来てくれたか!」


「来ました」


「私も一緒です!」


 美玲も元気よく手を挙げる。


「それは全然OK」


 楸は隣の青年を指差した。


「で、こいつが俺の後輩、高山」


 高山が頭を下げる。


「よろしく」


「哀沢達と同い年だ」


「よろしくねー」


「……よろしく」


 高山は真っ直ぐ雛を見る。


「哀沢さん、早速だけどスパーリングお願いしてもいいかな?」


「お前、会わせるだけっつったろ」


 楸が呆れる。


 だが高山は引かなかった。


「自分、納得してないんで」


 雛は少し考える。


「いいよ。やろうか」


「いいの? 雛」


「手加減するし、試したいこともあるから」


 美玲は嫌な予感しかしなかった。



 リング。


 二人はオープンフィンガーグローブを着ける。


 距離を取る。


 ゴングが鳴った。


 高山は慎重だった。


 楸に勝ったことはない。


 その楸が負けた相手。


 油断などできるはずがない。


 重心を落とす。


 タックルの体勢。


 その瞬間だった。


 雛の拳が跳ね上がる。


 すくい上げるようなアッパー。


 高山の上体が浮いた。


「っ!?」


 そこで終わらない。


 拳。


 掌打。


 肘。


 肩。


 引導流の連打。


 高山の体勢が崩れそうになる。


 だが崩れない。


 崩れさせてもらえない。


 次の打撃。


 さらに次。


 さらに次。


 高山は反撃どころか着地すら許されなかった。



「なんだ?」


 楸が眉をひそめる。


「あんなコンビネーション見たことねぇぞ!」


「あれって……」


 美玲が呟く。


「知ってるのか?」


「引導流って拳法の技だと思います」


「引導流?」


 楸が首を傾げる。


 その会話の間にも、高山が雛に滅多打ちにされている。


 引導流のコンビネーションで体勢をコントロールされ、倒れないように延々と連打される。



「やべっ!」


 楸が叫んだ。


「気絶してる!!」


 高山は立ったまま白目を剥いていた。


「ゴング鳴らせ!」


「ゴングだ!!」


 慌てて終了のゴングが鳴る。


 全身打撲で崩れ落ちる高山。



 美玲が額を押さえた。


「雛……」


「いいかも」


「え?」


 雛は倒れた高山を見る。


「引導流使ったら、あんまり手加減せずにやれる」


「そういう問題かなぁ……」


 美玲は遠い目になった。



 楸が頭を下げる。


「高山には後日詫び入れさせるから、今日はここまででいいか?」


「うん」


「引導流のことも、その時聞かせてくれな!」


「分かった」


 雛は頷く。


「美玲」


「ん?」


「アイス食べに行こう」


 美玲は苦笑した。


「いいけどねー……」


 二人はジムを後にした。


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